理由は過去30年間、日本経済がデフレだったこと。にもかかわらず首都圏では人口が増え続け、しかもインバウンドで旅客需要が増えたことでした。
特に東京23区は現在でも人口増加が続いていて、予測では2035年が人口のピークになりますが、2050年までの長期でみてもそれほど人口は減らないだろうとされています(東京都「2050東京戦略 附属資料 東京の将来人口」)。
そのため、JR東日本が東京圏で行ってきた大規模投資は経営上プラスに働きました。東京上野ラインと湘南新宿ラインそれぞれに巨額の投資をしたうえでの直通運転構想が実現したことで、首都圏の輸送量は大幅に増強されました。
さらにDXの進展でJR東日本の鉄道運行は世界的に突出した正確な品質が保たれ、私鉄との競争路線でもJRが選ばれてきました。そしてそれらの投資はデフレ時代に行われていますから、コスパのよいインフラ増強ができたのです。
私のように国鉄時代の国電のあのなんともいえない不愉快な乗車体験をしてきた古い世代から見れば、今のJRのサービスは極上といっていいぐらいに様変わりしたものです。
問題はこれからです。前提が逆転します。
JR東日本を苦しめる
経営環境の3つの変化
ひとつは首都圏でも人口がピークから減少へ転じること、ふたつめに日本全体でインフレが起きていて特に建築土木業界では価格上昇が著しいこと、そしてみっつめに地方の需要が急速に減衰していることです。
それでもこれまでは首都圏の黒字路線で地方の赤字をカバーして、全体では株主を満足させるだけの純利益をたたき出すことができていました。一方でこれからを考えると、構造的にJR東日本の経営は苦しさを増していきます。
というのも前提として収入の天井が閉じつつあります。首都圏の通勤需要はリモートワークの普及などで徐々に減りつつあるうえに、出張需要がZoom会議で激減しています。インバウンドだけではその減少はカバーしづらい状況です。
一方でコストの床は上昇する一方です。鉄道業は装置産業です。たとえお客様が1名でも走らせるためのコストはほとんど変わりません。線路、架線、車両の維持には莫大な費用がかかります。
黒字の首都圏と新幹線だけなら経営は楽ですが、営業距離で7割を占める地方線の維持にも同じだけのコストがかかるのです。しかもエネルギーとインフラ維持費、どちらもデフレからインフレに経済が逆転したことで前提が真逆になりました。金利も加えたコストの床は三階建て構造で経営を圧迫します。
今回、JR東日本の試算では値上げによって880億円の増収が見込めるそうですが、おそらく人件費増、保守費増、電力料金増によって、ほぼほぼ一年たらずでその増収分は使い果たしてしまうことになるでしょう。
これまではドル箱の首都圏路線網をさらに便利にしたり、高輪ゲートシティに象徴されるように不動産投資で収益の柱を広げたりすることで地方の赤字を吸収してこられました。しかし、これからの環境ではそのための投資コストが跳ね上がる。言い換えると、投資回収が難しくなります。
つまり日本経済全体がインフレで、かつ金利のある世界に突入した前提で考えると、構造的にJR東日本は、インフレに応じた価格改定を続けなければ経営の辻褄(つじつま)があわない新時代に突入したのです。
さて、ではどうすればいいのでしょうか?先に禁じ手を決めておきましょう。地方路線を全部閉じれば収益構造は格段に上がります。しかし日本最大級の公益企業ですからそれは禁じ手です。
一方で、この禁じ手を決めた瞬間にこれまでの考え方は詰みます。構造が変わらないと企業としての収益性は向上しません。
JR東日本ではいわゆるDXの伸びしろが製造業や他のサービス業ほど大きくはありません。これまで運行分野に極限までのDX投資を行い、世界に類を見ない正確な運行品質を達成してきたJR東日本ですが、それでも現場の安全は非常に大勢の人間の手に委ねられています。
インフラ点検をAIドローンで行うなどの進化はあっても、伸びしろが小さいことは経営の制約条件になります。地方を切らないと決めた瞬間に収益構造としては詰みです。
ではどうすればいいのでしょうか?







