◆日本でミステリーが成立するようになったワケ
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【ヒットの法則】江戸川乱歩が密室ミステリーで大成功できた納得の理由イラスト:塩井浩平

29歳でデビュー
芽が出たのは40歳ごろの遅咲き作家

江戸川乱歩(えどがわ・らんぽ 1894~1965年)三重生まれ。本名・平井太郎。早稲田大学政治経済学部卒。代表作は『D坂の殺人事件』『怪人二十面相』『人間椅子』など。日本の推理小説の先駆者として知られる。幼いころは母親が海外の探偵小説や日本の怪奇小説などを読み聞かせた。造船所や貿易会社、ラーメンの屋台などさまざまな職を転々とするが、推理小説への情熱は冷めず、大正12(1923)年、『二銭銅貨』でデビューして一躍注目を集める。その後、探偵小説や怪奇小説を次々と発表し、日本のミステリー文学に多大な影響を与える。昭和40(1965)年、くも膜下出血により70歳で死去。

震災を機に激変した
帝都・東京の住空間とライフスタイル

大正の終わりから昭和にかけては、関東大震災の影響もあり、特に東京の社会や文化は瞬く間に変わっていきました。震災以前にはメジャーだった古い日本家屋はほとんど焼けてしまい、西洋型のアパートメントが建てられるようにもなりました。

「プライベート空間」の誕生がもたらした
文学界へのパラダイムシフト

庶民の多くは従来、個室のない畳敷きの一間で暮らしていましたが、西洋型の個室を備えたアパートメントで暮らすようになったのです。こうした生活空間の変化が、文学にも変化をもたらしました。

その1つの変化は、「密室殺人」などミステリー小説が成立するようになったことです。そうした当時の新しい時代の流れにうまく乗ったのが、乱歩でした。

読者の「リアルな実感」が
未知のエンターテインメントを完成させる

小説というのは、言うまでもなく読者に読んでもらうことによって成立するものです。その点、「個室」というものをうまく想像できなかった読者が、個室を備えたアパートメントで暮らし始めたことによって、密室的なエッセンスを実感をともなって読み解けるようになったわけです。