職場でも深刻です。公立学校で病気休職する教職員のうち約3分の2は精神疾患が理由とされ(注1)、毎年の自殺者約2万人の半数には気分障害が関わるといわれています(注2)。うつ病による日本の経済的損失は、なんと2兆円規模に上ると推定されているのです(注3)。

 こうした数字が示すのは、うつ病が個人だけでなく社会全体を揺るがす重大問題だという事実です。けれど、ここに決定的な問題があります。これほど重大な病気なのに、診断はいまだに「問診」のみ。積極的に使える検査は存在しません。

 WHOは「2030年年までに、うつ病が世界最大の健康問題になる」と予測しています。(注4)だからこそ、脳画像や血液検査などを用いて病理学的に診断し、根本的かつ即効的な治療法を開発することが、今後の最大の課題なのです。

(注1)文部科学省. 平成29年度公立学校教職員の人事行政状況調査について.2017.

(注2)Hirokawa,S.,et al., Mental disorders and suicide in Japan: a nation-wide psychological autopsy case-control study. J Affect Disord,2012.140(2):p.168-75.

(注3)Sado,M.,et al., Cost of depression among adults in Japan in 2005.Psychiatry Clin Neurosci,2011.65(5):p.442-50.

(注4)WHO,Global burden of mental disorders and the need for a
comprehensive, coordinated response from health and social sectors at the country level 2011.

念願の昇進のはずが
うつ病を発症した男性

 ここで、昇進が引き金でうつ病になった40歳男性のケース(架空症例)をご紹介しましょう。

 この男性はもともと几帳面で、真面目にコツコツ働くタイプであった。会社を休むことなどほとんどなく、昇任試験に向けても人一倍努力を重ね、疲労もかなり蓄積していたという。それでも無事に試験に合格し、昇進が決まった。

 通常であれば喜ばしい出来事であるが、この方は逆であった。新しい役職の責任の重さを考えるうちに気分が沈み、何をしても楽しめなくなっていった。

 やがて体の疲れや口の渇きも出てきて、「糖尿病かもしれない」と内科を受診したところ、下された診断は、まさかの「うつ病」であった。抗うつ薬が処方されたが、「飲むと頭がぼーっとする」と自己判断で服薬を中止。

 その後、メンタルクリニックを紹介され、別の抗うつ薬に切り替えられたものの、改善はなかなか見られなかった。さらに、「会社に迷惑をかけたから辞めたい」と家の中をうろうろ歩き回るようになり、体重は1カ月で5kgも減少。ついには「死にたい」とまで口にするようになった。