「七手詰めが解けない…」プロ棋士でも起きる、うつ病による認知機能の変化とは写真はイメージです Photo:PIXTA

うつ病は、単なる気分の落ち込みではなく、思考や判断といった脳の働きそのものに影響を及ぼすことがある。 その一例として、プロ棋士のケースを手がかりに、うつ病が人間の思考力にどのような影響を与えるのかを見ていこう。※本稿は、精神科医で脳科学研究者の加藤忠史『「心の病」がみえる脳科学講義』(翔泳社)の一部を抜粋・編集したものです。本書は、認知機能の変化を脳科学の観点から読み解きます。 

プロ棋士・先崎学九段が
綴った「うつ病」の日々

 うつ病とはどういう病気なのか。これを直感的に理解するのに、とてもわかりやすいのがプロ棋士・先崎学九段の著書『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』(文藝春秋、2018年刊)です。2020年にはNHKでドラマ化もされ、ご存じの方もいるかもしれません。

 この本は、うつ病を発症してから復帰するまでの体験を自らの言葉でつづったものです。先崎九段は『週刊文春』でコラムを持つなど文章力にも定評があり、だからこそ、そのときどきの心境や体の感覚が、とてもリアルに伝わってきます。印象的な部分を抜き書きしてみました(7~13ページより抜粋)。

「対局中にまったく集中できない」
「思考が全然まとまらず、読みもせずふらっと指してしまう」
「朝の気分はへこんでいく一方」「朝が辛くなり、眠れなくなり」
「得体の知れない不安が私を襲った。そして決断力がどんどん鈍くなっていった」
「十時にベッドに入るのだが、一時くらいに目が覚めてしまう」
「朝の辛さは筆舌に尽くしがたい」
「俺はなんて情けない人間なんだ」「将棋界の中にもう自分の居場所がない」
「常に頭の上に一キロくらいの重しが乗っているよう」
「電車に乗るのが無性に怖くなった」
「なにせ毎日何十回も電車に飛び込むイメージが頭の中を駆け巡っているのである」