また、ヨーロッパでもっとも健康な国々のあいだで平均寿命を比較すると、もっと説得力のあるデータが示されており、デイヴィスの小麦殺人犯説の根拠のなさがよくわかる。ドイツを除けば、平均寿命が81歳を超える国はいずれも、パンやパスタ、カリッとした食感のグリッシーニ、プレッツェル、クリーミーなケーキなど、小麦を使用した香りがよく甘みもある食品を生涯にわたって大量に食べている。
さらに、ヨーロッパ大陸でもっとも平均寿命が長い(83歳を超える)5カ国のうち3カ国(スイス、イタリア、ノルウェー)では、小麦粉が原料の食品を大量に摂取しており、ノルウェーと(前述したように)イタリアは、1人当たりの小麦摂取量がドイツの約2倍にも及ぶのだ!
穀物は人類の発展に
欠かせない存在だった
あらゆる偏見、悪者扱い、裏付けのない主張を除外すれば、量的・質的なエビデンスは議論の余地のない事実をいくつか示している。植物を栽培化したからこそ、私たちは増えつづける世界人口と人類の経済的・社会的・文化的発展に、エネルギーと栄養の基盤を提供できたのである。
さらにイネ科とマメ科の穀物を組み合わせて栽培し、塊茎と油糧種子で補ったからこそ、主食の供給について予測を立て、それだけの供給があると信頼を置けるようになり(それでもリスクはともなうが)、余剰分を長期にわたって備蓄したり、主食用穀物をはるか彼方の国と取引したりできるようになった。また十分な量の食料供給(飢饉が頻繁に生じたり、長引いたりするリスクを最小限にする)が可能になったからこそ、人類の技術革新を(よきにつけ悪しきにつけ)進めて、芸術的な傑作を生みだせるようになったのだ。そして、ついに穀物を主食とした大規模な栄養供給が可能になったからこそ、前例がないほど平均寿命が延び、生活の質が向上したのである。
『世界はいつまで食べていけるのか 人類史から読み解く食料問題』(バーツラフ・シュミル著、栗木さつき訳、NHK出版)
こうした事実を1つでも否定すれば、人間の身体的・物質的な現実におけるもっとも基本的な原則を無視することになる。
地球規模で見れば、この移行には数千年という歳月がかかったものの、進化の観点から見れば、急速な発展を遂げたといえる。原始的な霊長類が初めて出現したとき(6600万年前)から、人類との共通祖先からゴリラが枝分かれし(おそらくたった数千万年ほど前)、それからほどなくチンパンジーが枝分かれするまでには、少なくとも5600万年が経過している。
二足歩行の霊長類が出現したのは約580万年前、ヒト属(ホモ属)が出現したのは200万年ほど前で、ホモ・サピエンスの最初のメンバーが出現したのは約30万年前だ。かたや、最終氷期が終わってから作物の栽培が始まり、穀物を主食とする初の国家が誕生するまでには7000年ほどしかかかっていない。とはいえ、穀物はなんの障害もない道をただまっすぐに進んできたわけではない。発展が加速化したのは、自然界におけるいくつかの基本的な制約を乗り越えたからだった。







