誰とデザインするのか
――組織を横断するコラボレーション設計

 次に、「誰とデザインするのか」という問いである。

 この問いは、デザインをどの部門と接続させるのか、という組織設計の問題にほかならない。「何をデザインするのか」というスコープが定まったとしても、それを実現するための関係性が構築されていなければ、構想は実装に至らない。

 デザインは万能ではない。できることと、できないことがある。だからこそ、組織として誰と協働するのかを明確にしなければならない。事業部門なのか、人事なのか、広報なのか、あるいは経営トップそのものなのか。その接続の設計を誤れば、デザインは組織の中で分断され、部分最適にとどまる。

 コラボレーションの土台となるのは、やはりコミュニケーションである。ただし、それは「デザインの言葉」によるコミュニケーションではない。経営には経営の言葉があり、人事には人事の言葉があり、事業には事業の言葉がある。CDOが果たすべき役割の一つは、それぞれの領域の言語体系を理解し、デザインの視点と接続することである。

 そのとき求められるのが、「翻訳する力」だ。経営の戦略をデザインのアクションに翻訳し、事業の課題を体験設計の視点に翻訳する。そして同時に、デザインの意図を他部門が理解できる言葉に変換する。この往復運動がなければ、組織横断のデザインは成立しない。

 さらに必要なのが「越境する勇気」である。デザインのスコープを広げようとすれば、「なぜデザインがそこまで関わるのか」という問いは必ず生じる。その問いに向き合い、領域を超えて対話を重ねる姿勢がなければ、遠心的な広がりは生まれない。

 こうした考え方は、私だけのものではない。

 武蔵野美術大学造形構想学部クリエイティブイノベーション学科教授の岩嵜博論氏は、企業におけるデザイン活動を「求心力」と「遠心力」という言葉で説明している。

 「個々のデザイナーがデザイン専門組織でエッジの利いたスキルを磨く、つまり求心力を高める取り組みが一方にあり、デザインの力を広範な事業や経営に波及させていく、つまり遠心力を発揮する取り組みがもう一方にある。企業におけるこれからのデザイン活動には、その両方の取り組みが求められる」

 この指摘は、CDOの役割とも重なる。専門性を磨く求心力と、事業や経営へ広げる遠心力。その両輪を機能させるためには、領域を横断し、言語を翻訳し、関係性を設計する存在が必要になる。

 私が述べてきた「翻訳する力」は、求心力と遠心力を結び付ける力であり、「越境する勇気」は遠心力を組織の外縁へと押し広げる原動力である。CDOとは、その二つの力を組織の中で循環させる役割を担う存在だといえるだろう。