何のためにデザインするのか
――企業の姿勢を形にするという仕事
三つ目の「何のためにデザインするのか」という問いは、組織の根幹に関わる問いである。この問いに対する答えは、企業ごとに表現は異なっても、本質的には共通していると私は考えている。それは、「企業の姿勢を形にするため」である。
企業の姿勢とは、理念や価値観、そして社会に対する約束である。どのような未来を目指し、どのような価値を提供し続けるのか。その姿勢が明確でなければ、体験価値もブランドも一貫性を持たない。だからこそ、「何のために」という問いは、単なる目的設定ではなく、企業の存在理由を定義する営みとなる。
CDOの役割は、その姿勢を経営トップや社内のキーパーソンとの対話を通じて明確にし、それを最も適切なメッセージ、ストーリー、ビジュアルへと変換していくことにある。さらに重要なのは、それを一過性の表現にとどめず、組織の仕組みとして実装することである。明確な姿勢に基づく発信が積み重なれば、社員は進むべき方向を共有し、社外に対してもぶれのない価値を提示することができる。
「何をデザインするのか」「誰とデザインするのか」「何のためにデザインするのか」。この三つを企業として定義し続け、その実行を担う存在としてCDOを位置付けること。それは単に役職を設けることではない。また、デジタル化や体験価値向上といった今日的なイシューにデザインとして解釈を加えるものでもない。市場や社会が変化するたびに、自らの価値創造の軸を問い直し、再設計し続けるという企業としての意思表示である。
企業は常に動き続ける存在だ。競争環境も、顧客の期待も、社会の要請も変わり続ける。その中で「何を」「誰と」「何のために」という問いは、一度答えを出せば終わるものではない。それは変革のたびに立ち返るべき羅針盤である。CDOとは、その羅針盤を手に、組織を次の方向へと導く役割を担う存在なのである。
本連載を通じて多くの経営トップやデザイン責任者と対話する中で、私は確信を深めた。デザインを活用して企業価値を高める取り組みが個社にとどまらず広がっていくとき、日本企業全体の競争力は確実に高まる。その積み重ねの延長線上に、産業の強さがあり、ひいては国の力がある。CDOとは、その変化を組織の内部から促す触媒である。







