
デザインと経営をつなぐ存在として、CDO(チーフ・
話を聞いたのはマネーフォワード社長の辻庸介氏。もともとデザインの感度は高くなかったと語る同氏が、デザインを経営に取り入れるようになった理由とは何か。経営者として、どのように関わるとデザインが持つ可能性を最大限に引き出せるのか、CDOの在り方を外側から浮き彫りにしていく。
デザインが経営の力になることを実感した
デザイナーとの対話
勝沼 マネーフォワードがCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)のポジションを設置したのは2020年だそうですね。早い段階からデザインの力を経営に活用できる可能性に気付かれていたということだと思います。その気付きのきっかけは何だったのですか。
辻 当然ですが、経営者の悩みは多種多様です。複雑な問題を整理できない。問題の本質をつかめない。自分の考えが社員に伝わらない。思考をまとめるためのフレームワークがない――。こういったことが、もどかしさとして常にあります。そんな中で、社内のデザイナー(役職は当時)の金井恵子に、会社の行動指針をポケットに入るカードにしてくれと依頼する機会がありました。そこで金井から「どうしてこうなんですか」とか、「要はこういうことでしょうか」とか、いろんな問いを投げ掛けられたのですが、それに答えていくうちに、僕の頭の中で本当にやるべきことが整理されていったのです。結果としてそこでの対話が会社の世界観であるMVVC(ミッション、ビジョン、バリューズ、カルチャー)策定につながりました。
このことを振り返ると、金井はカードをデザインするためのコンセプトを見いだす過程で、「カードを作って配りたい」という僕のオーダーの背景にあるもやもやしたものから、「カルチャーをデザインする」という本質的な課題を導き出してくれたのだと思います。
「デザインは経営の力になるんだ」と気付いたのは、おそらくこれがきっかけですね。

勝沼 辻さん自身は、もともとデザインに対する興味・関心はあったのですか。
辻 デザインへの感度が高かったわけではまったくありません。しかし、UI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザー体験)の設計がビジネスを大きく左右することは体験として知っていました。新しいサービスを開発するとき、いかに機能が優れていても、UI/UXがしっかり考えられていないと、ユーザー数がまったく伸びないし、収益も得られない。そんなことを何度か体験する中で、UI/UXデザインの重要性について学んだように思います。
それからもう一つ、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)というものを知ったとき、「これはとても優れたビジネスデザインだな」と思いました。自社のサービスやソリューションのAPIを公開すると、他のいろいろなサービスやソリューションと連携して価値を広めていくことができるわけですよね。これは、世の中に便利なものを広める方法のデザインと言っていいと思います。本当にあらゆるものにデザインは関わっている。今はそう考えています。