GWASは現在のところ、複雑疾患(遺伝と環境が相まって発症する疾患)に対するゲノム研究において最も成功している方法です。

双極症にかかりやすくなる遺伝子が
受け継がれてきたのはなぜか?

 双極症(双極性障害)(編集部注/躁状態とうつ状態を繰り返す精神疾患)にゲノム要因(編集部注/DNAの遺伝情報に起因する、病気の罹りやすさ、体質、薬の効き目などの個人差)が関係していることは、一卵性双生児では、二卵性双生児に比べて2人とも発症する率が高いことから、確実です。

 双極症は、紀元前からその存在が知られています。双極症にかかりやすくなる遺伝子の個人差が、時代を超えて受け継がれてきたのはなぜなのでしょうか?

 日本人における大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)で、唯一、双極症と関連していたのはFADS1/2というゲノム領域でした(注1)。(注1)Ikeda M. et al., Mol Psychiatry . 23:639-647(2018)

 FADS1とFADS2は、魚の油に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)などの多価不飽和脂肪酸(PUFA)の合成に関わる酵素をコードしている遺伝子です。この関連は、その後欧系人でも確認されました。GWASで見出された双極症の遺伝子型は、酵素の活性が低いタイプでした。

 そこで私たちは、両遺伝子を2つのうち1つしか持っていない遺伝子改変マウス(ヘテロノックアウトマウス)を作って、その行動を調べました(注2)。(注2)Yamamoto H. et al., Mol Psychiatry . 28:2848-2856(2023)

 マウスが好んで行う輪回し行動を半年間にわたり記録したところ、オスマウスは時に、一日中持続する突発的な高活動という躁状態に似た行動変化を示し、メスマウスは、時に2週間程度の低活動といううつ状態に似た行動変化を示しました。メスの一部には、両方を示すものもいました。

 メスのうつ状態のような行動変化は、リチウム、あるいはDHAにより減少しました。

 これらのデータから、FADS1とFADS2の活性低下によりPUFA合成能が低下することが、双極症のリスクを高めると考えられました。

 このFADS1/2の個人差は、どのようにして生まれてきたのでしょうか。