ピーター・ティール氏PayPal、Palantir Technologiesの共同創業者であるピーター・ティール氏

シリコンバレーを代表する起業家であり、卓越した投資家として世界的な影響力を持つピーター・ティール氏。ペイパル共同創業者やパランティアのトップとして数々の革新を牽引してきた彼は、深い教養を持つ稀代の思想家でもある。今、生成AIの熱狂に沸く世界に対し、彼は極めて冷静かつ根源的な問いを投げかけている。私たちが無邪気に信じるテクノロジーの進化は本当に存在しているのか。世界を牽引してきたはずの技術が実は半世紀にわたって停滞しており、それが破滅的な経済危機を引き起こすというのだ。世界の行方を左右する、知の巨人による独占講義が今、幕を開ける。(取材・構成/小倉健一)
※本稿は、2026年3月6日行われた「ピーター・ティール氏 特別講演」電通ジャパン、電通総研 経済安全保障研究センター主催講演の抜粋に解説を加えたものです。

科学技術の進歩の
「大きな減速」の兆候

 私が生まれた1967年当時、テクノロジーを定義するならば、それは実に多種多様なものを指していました。コンピュータはもちろん、医学、ロケット、超音速旅客機、農業における緑の革命などです。

 しかし今日、テクノロジーといえば、それは「情報技術(IT)」のみを指すようになっています。テクノロジーという言葉の定義がこれほどまでに狭まってしまったという事実こそが、(科学技術の進歩の)大きな減速(スローダウン)を物語る一つの兆候であると私は考えています。

 5年前に私のベンチャーキャピタルで作ったスローガンがあります。「空飛ぶ車が欲しかったのに、手に入れたのは140文字(※当時のTwitterの文字数制限)だった」というものです。Twitter(現:X)という会社そのものを批判しているわけではありません。そうではなく、多くの領域で進歩が停滞してしまったという事実を指摘しているのです。

進歩を測る最も単純な方法として
「速度」に着目すると…

 様々な指標に目を向ければ、物事が非常に異常な状態にあると言える根拠が至る所に見つかります。進歩を測る最も単純な方法の一つは、純粋に速度、つまり私たちがどれだけ速く移動していたかという点にあります。

 1500年以降、10年ごとに船は速くなり、19世紀には鉄道がさらに高速化し、20世紀には自動車が速くなりました。そして1951年にはジェット飛行が始まり、1970年代にはコンコルド(超音速旅客機)が登場しましたが、そのコンコルドも2003年に退役しました。私たちは逆行しているのです。