「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく。
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若手が「戦略」を遠ざける本当の理由
――若手ビジネスパーソンの多くが、「戦略立案は自分にはまだ早い」と感じているようです。この感覚をどうご覧になりますか?
非常にもったいないと感じます。その感覚の正体は、「戦略」という言葉に対する誤解です。
戦略と聞くと、MBAで学ぶような難解そうなフレームワーク、数百枚におよぶスライド資料、複雑な市場分析などを思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、それらはあくまで手段であって、本質ではありません。
戦略の本質は、「限られたリソースの中で、どこに集中するかを選ぶこと」です。これは特別なスキルではなく、若手でも今日から実践できる思考です。
――若手のうちから戦略的思考を身につけることには、どんな意味があるのでしょうか?
キャリアの可能性が根本的に変わります
戦略的に考えられる若手は、「指示されたことをこなす人」から「自分で問題を発見し、解く人」へと変わります。この違いが、10年後の立ち位置に大きな差を生みます。
私自身の実感としても、若いうちから「なぜこの仕事をするのか」「自分たちの強みは何か」を問い続けてきた人は、指示された仕事をこなしてきた人と比べて、積み上げてきた経験の密度が圧倒的に異なります。
入社3年目から使える「10の問い」
――では、若手は戦略的に考えるために、まず何から始めるべきでしょうか。
本書では「ゼロから勝ち筋を導き出す10の問い」を提示していますが、まず問うべきは、「自分のチームの顧客は誰か」という問いです。
「顧客が誰かくらいは理解している」と思う人が多いですが、実際には解像度が低いケースがほとんどです。「30代女性」といった属性ではなく、「どんな状況にあり、何に困っていて、何を求めているのか」まで具体的に捉える。
この問いに向き合うだけで、「誰にどんな価値を届けるべきか」が見えてくるため、仕事の優先順位は大きく変わります。
次に重要なのが、「自分たちは競合と比べて何が違うのか」という問いです。
この問いに答えられないと、「とにかく頑張る」という曖昧な姿勢に陥りがちです。
「なぜ顧客は自分たちを選ぶのか」「何が他との違いを生んでいるのか」を言語化することで、強みをさらに伸ばすための具体的な行動が見えてきます。
――実際にこうした問いに向き合ってみると、簡単には答えが出ないことも多いと思います。
それでいいのです。多くの場合、そこで生まれるのが「答えが出ないことへの恐れ」です。「わからない」と言えずに、なんとなく答えを出そうとしてしまう人も少なくありません。
しかし、本来、良い問いは、すぐに答えが出ないものです。
むしろ簡単に答えられる問いは、問いの立て方が浅い可能性があります。
わからないことを認め、調べ、議論する。このプロセスそのものが戦略的思考のトレーニングになります。上司に「わかりません、一緒に考えてください」と言える若手の方が、結果的に成長のスピードは速いのです。
「戦略的に働く」ことは、キャリアへの最大の投資
――最後に、若手に向けてメッセージをいただけますか?
一つだけお伝えするとすれば、「目の前の仕事を、常に上位の目的とつなげて考えてほしい」ということです。
なぜこの資料を作るのか。なぜこの顧客にアプローチするのか。なぜこのタイミングなのか。
この「なぜ」を問い続けることが、戦略的思考の出発点になります。
最初は答えが出なくて当然です。しかし問い続けることで、仕事の見え方が変わり、提案の質が上がり、キャリアの選択肢が広がっていきます。
戦略を「デザインする力」は、後天的に身につけることができるスキルです。本書がその最初の一歩になれば嬉しく思います。
――ありがとうございました。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




