精読の概念は、20世紀初頭にアメリカやイギリスの文学批評の中で発展しました。代表的なのは、1930年代から50年代にかけてアメリカで展開された「ニュー・クリティシズム(新批評)」と呼ばれる文学理論運動です。

 ニュー・クリティシズムは、作品の外的な要素(作者の伝記的背景や社会的状況)よりも、作品それ自体の内部に注目し、テキストを注意深く細部まで読み解くこと(close reading)を重視しました。

 この思想が、テキストそのものの構造や言語表現に集中し、深く読み込むという精読のスタイルを確立しました。

行間やニュアンスまでも
汲み取ることができる

 日本では特に語学教育や文学教育の分野でこの「精読」が広く採用されました。たとえば、外国語教育では単語1つひとつの意味や文法構造を丁寧に分析しながら文脈を理解する精読が重視され、これは現在でも英語や古典の授業でよく見られます。

 受験のときに、単語1つひとつの意味を取って長文読解をした経験がある方も多いのではないでしょうか。

 それでは、脳科学の視点でこの精読について考えてみましょう。まず精読において特に活性化されるのが、脳の左半球にある言語領域(ウェルニッケ野やブローカ野)です。

 精読では、単語や文の意味を理解するだけでなく、文章全体の文脈や、行間に潜む意図やニュアンスを推論するという高度な認知処理が行われます。この際には、言語野だけでなく、推論や抽象的思考を司る前頭前野も協調的に働きます。

 さらに、精読は長期記憶への定着を促進する効果があります。精読を通して得られた情報は、すでに脳内にある知識や経験(スキーマ)と強く結びつくからです。

 精読のメリットとして挙げられるのは、正確で深い理解が可能になる点です。じっくりと読み込むことによって知識がしっかりと定着し、後から想起しやすくなります。

両者の長短を理解して
使い分けることが重要

 逆にデメリットとしては、精読には非常に多くの時間と集中力が必要であるということです。そのため、すべての情報を精読するよりは、重要な内容や深く理解したい内容に限定する方が、無理なく続けられるかもしれません。

 精読を効果的に進める具体的な方法としては、文章を繰り返し読むこと、重要なポイントをメモやノートに書き出すこと、また理解が難しい言葉や概念を辞書や参考書を使って調べることなどが挙げられます。

『読書する脳』書影『読書する脳』(毛内 拡、SBクリエイティブ)

 こうすることで、脳は情報を何度も想起したり、他の知識と関連づけたりしながら処理することができるようになります。

 ただ、快読と精読のどちらが一概に優れているということではありません。快読と精読の違いは、脳内での情報処理の「深さ」と「広さ」におけるバランスの違いです。

 脳は目的や状況に応じて前頭前野を制御し、ワーキングメモリの使い方や言語野への負荷を調整し、それぞれの読書手法を巧みに使い分けているのです。

 たとえば、丁寧に読みたい本は精読で、サクッと内容を把握したいニュースやメールは快読で、といった使い分けはとても身近なものです。そしてそれは、脳科学的にも理にかなっているのです。