「相手の事情を丁寧に聞き、正しい情報をお伝えする」通常のビジネスシーンでは正解とされるこの対応も、激昂したお客様が相手となると、かえって火に油を注ぐ結果を招きかねません。
真面目な現場スタッフが抱きがちな「私だったら事情をきちんと説明してほしい」という主観的な善意は、パニック状態にある相手にとって「否定された」「責められた」と受け取られる危険性をはらんでいます。相手をなだめようと感情の渦にやみくもに飛び込めば、事態がこじれるだけでなく、対応するあなた自身の心まで深くすり減ってしまうでしょう。
そこで本記事では、『クレームは「最初の30秒」で9割解決 クレーム対応 最強の話しかた[完全版]』(ダイヤモンド社刊)の内容をもとに、対応の成否を分ける「ファーストアクション」の鉄則を抜粋・再編集してお届けします。
怒りに飲み込まれることなく状況を俯瞰する「メタ認知」の重要性をご紹介します。(文:山下由美)
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「私だったらこう対応して欲しい」という主観が、相手を怒らせる
私たちは子どもの頃から、「相手の話をよく聞きなさい」「正直に答えなさい」「間違っていたら謝りなさい」と教えられてきました。また、社会に出てからも、接客マナー研修や対応マニュアルで、「お客さまのお話を傾聴しましょう」「事実を確認しましょう」「正しい情報を伝えましょう」と繰り返し学びます。
しかし、ここで一つ、はっきりお伝えしておきたいことがあります。お客さまの怒りが爆発している状態でのファーストアクション(最初の30秒~3分)では、こうした“常識”は通用しません。それどころか、相手のためを思ってとった行動が、かえって相手の怒りを強めてしまうことさえあります。
現場の担当者から、「よかれと思ってやったのに、なぜか怒らせてしまった」という声をよく聞きます。善意が否定されたように感じ、戸惑い、ときには傷つくこともあるでしょう。
では、なぜこのような善意が裏目に出るのでしょうか。
最大の原因は、対応する側が「もし自分だったらどうしてほしいか」という主観で考えてしまうことにあります。「私だったら、間違っていたら正してほしい」「私だったら、事情をきちんと説明してほしい」――。こうした考えを基準にして対応してしまうのです。
しかし、それはあくまで、冷静な状態でいるあなたが、同じ状況に置かれた場合に望む正解です。一方、目の前にいるのは、トラブルや怒りによって脳がパニック状態にあるお客さまです。その状態での「訂正」「説明」「正論」は、「否定された」「責められた」「攻撃された」と受け取られやすく、結果として事態を悪化させてしまいます。
一歩引いて考え、分析する
善意が裏目に出ないようにするには、自分と相手を切り離し、一段上から状況を眺める視点、いわゆるメタ認知を働かせることが重要になります。メタ認知とは、感情の渦の中に飛び込むのではなく、少し離れた場所から状況を観察することです。
激流に飲み込まれ、溺れている人を想像してみてください。助けたい一心でやみくもに飛び込めば、一緒に沈む恐れがあります。だからといって、泳ぎ方を教えることもできません。メタ認知を発揮できる人なら、緊急事態であること、自分の泳力、救出の可能性などを客観的に捉え、まずは浮き輪を投げます。
クレーム対応も同じです。真面目なスタッフほど、相手の気持ちを理解し、寄り添おうとしがちですが、他人の気持ちを完全に理解することはできません。無理に同調しようとすれば、相手の怒りに巻き込まれ、疲弊するだけです。
「この人は勘違いしているから、訂正してあげよう」といった主観で動くのではなく、「人は大勢の前で間違いを指摘されると、恥をかかされたと感じて攻撃的になりやすい」というように、置かれた状況に対する人の反応を客観的に捉えることが大切です。そうすれば、「今は正論を伝えるタイミングではない」という判断が自然とできるようになります。
正論をぶつけるのではなく、まずは共鳴の言葉という“浮き輪”を投げ、息継ぎできる状態をつくる。それがプロの対応であり、結果としてお客さまを救うことにつながります。そして同時に、あなた自身の心を守ることにもなるのです。
このように、自分本位の善意を振りかざさないようにするには、よかれと思って動く前に一瞬立ち止まり、メタ認知を働かせることです。「今、この瞬間、相手の脳はどんな状態にあるのか?」を俯瞰することが欠かせません。ただし、メタ認知を発揮し、とっさに正しく判断するには、普段からの意識づけが大切です。
「よかれと思って」という善意や、「早く状況を収めたい」という責任感が、逆効果になっています。そうした対応をしないよう、まずは意識しましょう。



