地政学リスクが高まるほど
米国株が強い3つの理由!
今回の2つの作戦は、もう一つの重要な事実も浮き彫りにした。中国・ロシアを中心とする反西側陣営が、いざとなれば同盟国を守れないという現実だ。
「ベネズエラ攻撃に対し、中国外務省は『深く驚愕し、強く非難する』と異例の激しい言葉を並べました。しかし、現実に有効な対抗措置は講じられず、中国製の防空システムが無力化される状況に、有効な対応は取れませんでした。イランへの攻撃でも同様に、中ロが同盟国の“盾”にはならないということが露呈しています」(森さん)
今回の衝突で示されたメッセージは「米国と組めば有事に軍事的守護を期待できるが、中ロと組んでも得られるのは経済・政治支援のみ。有事は自己責任」ということだ。この現実が世界の安全保障地図を塗り替え、“米国の強さ”を市場に再認識させている。
対イラン作戦が開始された2026年2月末から3月19日までに、日経平均が9.3%下落する中、S&P500は4.0%の下落にとどまった。また、米国株を除く先進国22カ国の主要企業で構成される株価指数「MSCIワールド(除く米国)」は7.7%下落、新興国約24カ国の主要企業で構成される「MSCIエマージング・マーケット・インデックス」も6.4%下落した。拡大画像表示
これを受けて、今回の軍事衝突でも、米国株は底堅さを維持した。対イラン作戦を受けて世界の株式市場が大きく調整する中、2月末から3月119日までに日経平均は9.3%下落したがS&P500の下落は4.0%にとどまった。シアトル在住のストラテジスト、ポール・サイさんはこう語る。
「ウクライナ戦争が開始された際も、当初は悲観論が広がりましたが、結局のところ米国株への投資戦略を根底から変える必要はありませんでした。今回のイラン情勢も、本質的にはその延長線上にあります」(ポールさん)
ポールさんの分析によれば、地政学リスク下でも米国株が強い理由には3つの要因がある。
(1)世界の資金が“安全市場”として米国に集中する・・・・・・地政学リスクが高まると世界の資金が米ドル・米国株へ流入する。
(2)エネルギーショックに強い・・・・・・シェール革命によって、米国はエネルギー自給率が高まったため、欧州・日本などと比べてショック耐性が格段に強い。
(3)利益成長率が高い・・・・・・AI・クラウド・半導体といった高成長セクターの比率が高く、地政学リスクが高まる中でも、他国に比べて利益が拡大しやすい。
森さんも米国株の強さをこう指摘する。
「今回のホルムズ海峡の事実上の封鎖で、通過する石油の大半がアジア市場向けという事実が明らかになりました。日本・韓国などへの打撃は大きかった一方、エネルギー自給率の高い米国への影響は限定的だと言えます」(森さん)
戦争の勝敗を決めるのは
データを管理する能力だ!
パランティア・テクノロジーズの週足チャート(提供:マネックス証券)拡大画像表示
米国株全体の強さを確認したうえで、次に注目したいのが、新たな軍事関連といえる銘柄だ。キーワードは「マネジメント」だ。杉山さんは現代戦の特徴について、次のように説明する。
「かつて兵器の強さはABC、すなわち原子(アトミック)・生物(バイオロジカル)・化学(ケミカル)で語られていました。その後、中国が提唱したD(データ)が加わり、今はそのデータをどう管理・活用するかというM(マネジメント)の時代です。AIが戦況を瞬時に分析し、最適な攻撃・防御を指示する——まさにABCDMの時代が到来しています」(杉山さん)
データを活用して顧客組織の効率性を高める分析ソフトウェアを提供する企業。商業顧客向けには「Foundry(ファウンドリー)」、政府顧客向けには「Gotham(ゴッサム)」というプラットフォームを展開。西側同盟国の組織とのみ協業し、西側の価値観に反する組織との取引は行わないという方針を掲げている。2003年に設立され、2020年にニューヨーク証券取引所へ上場。2023年12月に黒字転換し、利益を大幅に伸ばしている。拡大画像表示
この“マネジメント”を象徴する存在として注目されるのが、米データ分析企業のパランティア・テクノロジーズ(PLTR)だ。衛星画像や通信データ、人的情報、SNSなど膨大なデータをAIで統合し、戦場における意思決定を支援するプラットフォームを提供している。今回の作戦でも、敵指導者の位置特定などに重要な役割を果たしたのではと言われている。
「戦場は巨大な“実験場”ともいえます。インターネットをはじめ、これまで軍事で生まれた技術が民間に転用されてきたように、今回の作戦で活用されたAIやデータ分析技術も、今後は企業の経営判断や情報分析へと広がっていくでしょう」(杉山さん)
つまりパランティアは、軍事分野とAIの両面で成長余地を持つ企業だ。OpenAIとの連携を通じて軍の情報分析を担う中核的存在となりつつあり、軍事で培われた技術が民間へと波及していくという成長ストーリーが描ける点も、長期投資家から高く評価されている理由のひとつだ。
防衛株の本命はロッキード・マーティン
共同研究部門が次世代兵器を生み出す!
ロッキード・マーティンの週足チャート(提供:マネックス証券)拡大画像表示
データ戦を支えたパランティアに対し、実際の軍事作戦で主役を演じたのがF-35戦闘機などを製造するロッキード・マーティン(LMT)の兵器だ。ベネズエラ作戦では、同社製の無人偵察機「RQ-170センチネル」が高度1万5000メートルから敵の状況を精密把握し、「EA-18Gグラウラー」(ボーイング社製)が電子妨害で敵レーダーを機能不全に陥らせた。そして、F-35戦闘機がステルス性能を活かして防空網の隙間を縫い、深部まで侵入したとみられている。
こういった偵察機や戦闘機をはじめ、ミサイルや防衛システムなどを手掛け、世界最大級の防衛企業として君臨するロッキード・マーティン。その強みについて、森さんはこう語る。
世界最大規模の防衛企業。2001年に次世代ステルス戦闘機「F-35」プログラムを受注して以来、欧米の高性能戦闘機市場を牽引し続けている。最大の事業部門は航空機部門で、ミサイル防衛システムを手掛ける部門、宇宙システム部門がある。拡大画像表示
「ロッキード・マーティンは、『スカンクワークス』という政府との共同研究部門を持っており、次世代兵器を次々と開発していると言われています。無人偵察機、海中ドローン、ミサイル防衛システムも手掛けているとされ、もはや防衛産業のインフラそのものです。日本・韓国・欧州・中東が軒並み防衛費を増やしているため、受注残は過去最高水準にあります」(森さん)
さらにベネズエラ作戦では、電磁波で兵士を無力化するエネルギー兵器が初めて実戦投入されたとも報告されている。こういった新型兵器が登場するたびに旧型兵器が陳腐化し、各国が買い替えを迫られる——軍需産業には買い替えサイクルという長期にわたる需要が存在するのだ。
ドローンを使った戦争が
光ファイバー需要を爆増させる
コーニングの週足チャート(提供:マネックス証券)拡大画像表示
また、防衛関連銘柄として、杉山さんが意外な企業にも注目している。光ファイバー大手のコーニング(GLW)だ。
「今、ウクライナの最前線では、ドローンへの無線信号を妨害する『ジャミング』技術が戦況を左右しています。ロシア・ウクライナ両軍はその対抗策として、軽量の光ファイバーケーブルを通じて通信する『耐ジャミングドローン』の使用を増やしています。その光ファイバーを供給する企業として注目を集めているのが、米国の素材大手コーニングです」(杉山さん)
老舗素材メーカー。光通信、ディスプレイ技術など5つのセグメントで事業を展開し、光ファイバーでは世界有数の存在だ。AIデータセンター向けの需要拡大に加え、ドローン操縦用の光ファイバーケーブルとして軍事需要も急増。拡大画像表示
コーニングの直近決算が好調だった背景には、AIデータセンター需要に加え、こうした軍事通信需要があると見られている。防衛株と認識されていない分だけ割安感もあり、注目度が高まっている。
宇宙と防衛が融合する次世代銘柄!
衛星で敵の動きをAI分析する時代へ
次に森さんが注目するのが、宇宙関連銘柄と防衛産業の融合だ。
「宇宙関連企業は防衛と絡んでいます。衛星で撮った写真をAIで毎日比較分析すれば、敵がどこに基地を作ったか、どう動いているかが一目でわかる。これが現代の情報戦の主戦場です」(森さん)
森さんが注目するのが次の2銘柄だ。
ロケット・ラボ・コーポレーション(RKLB)・・・・・・小型衛星の打ち上げサービスと宇宙システムソリューションを世界中の政府・航空宇宙分野の顧客に提供する宇宙企業。宇宙機の設計・製造から、軌道上の運用管理、衛星群サービスまで幅広く手掛ける。米空軍研究所と提携し、中型再利用可能ロケット「Neutron(ニュートロン)」を開発中。
ロケット・ラボ・コーポレーションの週足チャート(提供:マネックス証券)拡大画像表示
赤字が続いているが、売上高は大きく伸びており、株価は約2年で約18倍になっている。拡大画像表示
プラネット・ラボスPBC(PL)・・・・・・地球観測衛星を運用し、高頻度の地理空間データを世界中の顧客に提供する宇宙データ企業。衛星モニタリングや画像アーカイブ、分析ツールなどを通じて、顧客が地球規模のデータを意思決定や行動に活用できる環境を整えている。農業・エネルギー・金融・保険・政府など幅広い産業にサービスを提供。
プラネット・ラボスPBCの週足チャート(提供:マネックス証券)拡大画像表示
売上高は伸びてはいるが、こちらも赤字が続いている。しかし、株価は約2年で約10倍になっている。拡大画像表示
地政学リスク時代に備えて
長期では防衛株は買っておくべき!
では防衛関連にいま投資すべきなのか。短期的には買い時ではないと、ポールさんは言う。
「ロッキード・マーティンなどの防衛株の株価はすでに上昇しており、割安感は乏しいです。現在の軍事的緊張も大規模紛争には発展しないとみています。トランプ政権の支持率低下や中間選挙での民主党躍進の可能性が、戦争継続の大義を弱める方向に働くでしょう」(ポールさん)
一方、長期的な視点では防衛関連株への投資は有望だと杉山さんはみている。
「現代はAIによる情報分析が発達しており、各国の軍事力が瞬時に比較・評価される時代です。こうした状況で抑止力を維持するため、各国は常に最新の軍備やシステムへの投資を続けざるを得ません」(杉山さん)
資産の安定化という観点からも、防衛関連株には大きな魅力がある。地政学リスクや政治的不安定が高まり、他の株式市場が急落するような局面でも、防衛関連株は価格が下がりにくい傾向があるからだ。「S&P500や全世界株式(オルカン)などのインデックス投資と組み合わせることで、下落局面における効果的なリスクヘッジとして機能するでしょう」(杉山さん)
さらに、米国の軍事関連企業は長期にわたり年平均7〜10%程度の安定した増収を続けている。
「足元では株価調整の可能性はあるものの、10〜20年の長期保有を前提とすれば、株価が数十倍になる可能性もある」(杉山さん)
全体相場が調整局面を迎えた時は、防衛関連株を買うチャンスといえるだろう。地政学リスクが高まり続ける時代において、これらの銘柄は資産の安定と長期成長の両方を狙える、選択肢になりうるだろう。
本記事は2026年3月25日時点で知りうる情報を元に作成しております。本記事、本記事に登場する情報元を利用してのいかなる損害等について出版社、取材・制作協力者は一切の責任を負いません。投資は自己責任において行ってください。







