いいお父さんは早死にする。朝ドラの法則
泥にまみれた手を胸に乗せ、信右衛門は事切れていた。
その手はまだあたたかく……。
「間違えた また間違えた」とりんは自分を責めるが、父の顔が安らかだった。
こんなときどうすればよかったか。もっと早く納屋をぶち壊してでもなかに入って病院に連れていけばよかったということだろうか。
悲しすぎる父の死。美津と安は足止めを食らって、臨終に間に合わなかった。りんの悲しみはいかばかりかと思うが、東京に行っている間に、夫が突然コロリに罹って亡くなってしまった美津のショックは計り知れない。
途中、祭りでも印象的な獅子舞が出てきて、足止めをくらった美津と安が獅子舞をかぶって村に入り、信右衛門と会えるのかなと想像したのだが、全然関係なかった。
信右衛門は武士の時代が終わる前に、一足先に武士に見切りをつけ、自然のなかで生きる農業をして生きていくことを選んだ。それでも刀を捨てずに隠し持っていた。
第1回では中村から「御家老様は立派な武士でござる」と尊敬されていた。武士とは何か。刀で他者を切るのは武士ではなくて、本来はなにかもっと違う心意気を持った者のことなのであろう。
信右衛門が家老をしていた殿がこの地を戦場にしないために新政府に与した。これも第1回で信右衛門が語っていたことだ。日本国内で戦いあっていた時代、何を守って何と戦うのか、矛盾のなかで生きてきたのだろう。死を懸けて戦うのではなく生きることを信右衛門は選んだのだ。
困ったお父さんは長生き、いいお父さんは早死に、これが朝ドラの法則である。
主人公の生きる指針になる立派なお父さんが早く亡くなったのは、2016年度前期の『とと姉ちゃん』。
西島秀俊演じるお父さんは第5回で結核にかかって亡くなった。
2020年前期の『エール』はヒロインで主人公の妻・音(二階堂ふみ)の父(光石研)が第9話で交通事故で亡くなった。2022年度前期の『ちむどんどん』では大森南朋演じるお父さんが亡くなったのは第6回。働き盛りだったのに農作業中に倒れて亡くなった。
このなかでは、『風、薫る』の信右衛門の死が最も早い。おっと、2025年度前期の『あんぱん』も『風、薫る』と同じく第4話。主人公のぶ(今田美桜)にお父さん(加瀬亮)の訃報が届く。体調が悪いのをおして働いた無理がたたって出張先で……。
いいお父さんは早く亡くなり、娘の生き方に大きな影響を及ぼす。信右衛門もかなり重要なワードをたくさん語って去っていった。合掌。









