起業の苦難や楽しさを「仲間づくり」の視点から赤裸々に描いた『ともに戦える「仲間」のつくり方』の著者、南壮一郎氏。今回は、2014年9月に日本初の全寮制インターナショナルスクールを開校すべく奮闘中である小林りん氏との対談の後編をお届けします。チームの雰囲気を一変させる成功体験のつくり方とは?(構成:朝倉真弓)
2週間のサマースクールで変わるのは子どもだけじゃない
――チームを成長させる「小さな成功体験」のススメ
南 いろんな人を巻き込んでいって、チームでプロジェクトを進める喜びって何ですか?
カナダの全寮制インターナショナルスクールを卒業後、東京大学経済学部へ。1998年卒業後、モルガン・スタンレー証券、ITベンチャー、国際協力銀行を経て、スタンフォード大学院へ留学(2005年教育学部修士課程修了)。2006年国連児童基金(unicef)職員としてフィリピンへ赴任。ストリートチルドレンのための教育プログラムを担当。その経験から次世代のリーダー教育の重要性を強く感じ、2008年8月に帰国。現在は、2014年9月に「インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)」を開校すべく、設立準備財団の代表理事として活動中。ダボス会議の40歳以下のメンバーである世界経済フォーラム「2012年度ヤング・グローバル・リーダーズ」に選出。
小林 まだ実態としての学校がない私たちにとって、毎年のハイライトはサマースクール。世界中から子どもたちと先生たちが来て、理想の教育が実現され、目の前で子どもたちが変わっていくのを目の当たりにできるのって、サマースクールの1回だけなんです。それをみんなが楽しみにしている。子どもたちの成長を見ると、自分たちが信じてやってきたことは間違っていないという確信につながるんです。それが一番の喜びかもしれません。
南 始まる前よりも終わったあとのほうが楽しい?
小林 終わってからがじわじわ楽しいんですよね。頭の中で考えてきたことが目の前で実際に起こることのインパクトが大きくて。ぼんやりと理想だけを追っていたときよりは、1年に1回だけでも実現して自分たちの考えが間違っていないということが立証されると、チームの士気も全然変わるし、学校の有用性を示す対外的な証明にもなるから。
たとえば多様性に関しては、頭ではわかっても、多くの日本人はそれを体験していない。でも、ある年のサマースクールに、パレスチナの紛争地域から来た子がいたんです。彼は今風の男の子だったんだけど、自分の国のことを紹介する際にパレスチナの国旗を広げて。
「ここの三角はパレスチナ人の血の赤です。僕のお父さんはイスラエル軍に投石した罪で投獄されています。ガザはイスラエルの占領下にあるので、国境を越えてヨルダンまで渡ってから日本に来ました。僕はその国境で50時間尋問にあいました」って。14歳の彼は、「みんなが空気のように感じている移動や宗教の自由は、実は世界の多くの国では当たり前ではない」ということを切々と語るんです。それは、私たち大人が授業中に教えるのとは全然違うインパクトを持って子どもたちに伝わっていく。
そして、2週間のサマースクールで子どもが大きく変わった姿を見るにつけ、やはりここはパワフルな環境だということを実証できる。そういう小さな成功体験を積み重ねて、私たちはここまで来ているんですよね。
南 会社や学校にいろんなバックグラウンドの人が集まることによっていろいろな化学反応が起こるということは、僕もたくさん見てきました。それを若いうちに体験できるというのは素晴らしいことですね。
小林 会社でも多様性を意識して人材を採用するようにしているの?
南 事業づくりをしたいという根幹は一緒じゃないと交わることができないけれど、そこさえ一緒であれば、年齢や性別や職種や、考え方もいろいろあったほうがイノベーションは生まれやすい。ぶつからないと新しいものは生まれませんからね。りんちゃんの言う通り、カオスが大切だということは日々実感しています。