「社長、どうしちゃったんだよ…」情に厚い人→“カネの亡者”へ部下の評価ダダ下がりのワケ【マンガ】『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第57回では上場企業における株主からの重圧について解説する。

「世界王者」から「金の亡者」に成り下がった?

 自らが興したT-BOXを見事上場まで導いた主人公・花岡拳。上場時の記者会見では、通販事業の拡大こそが成長戦略だとアピールしたが、すぐさま通販事業を強化すべく、経験豊富な矢野を社員として採用する。

 そして通販事業の計画が遅延するやいなや、これまでトップを務めていた社員・渡辺を、新人の矢野に変更するよう、役員で古参メンバーの大林隆二に指示する。大林は「上場準備室で最も貢献した社員だ」として渡辺をかばうが、花岡はその言葉を聞き入れずにこう言うのだった。

「何のために上場したと思ってんだ。事業拡大のために専門性を持った優秀な人材を集めることもひとつの目的だろう」

 これまでとは違う、花岡のドライな態度を目の当たりにした大林は、「社長…どうしちゃったんだよ」「筋にこだわり、情に熱い人だと思ってた。なのに今は、社員より業績と株価にしか目がいかない。世界王者の面影は消えて、金の亡者に成り下がった!」と心でつぶやく。

 体制が変わりつつある社内。配置転換に前後して、大林は経理担当の菅原雅弘と「小岩でチマチマやっていた頃がなつかしいなあ」「ホント…いい時代だったよね」と振り返っていた。

 またある日、大林は居酒屋でグチる渡辺に「あとは俺にまかせろ。俺が悪いようにしねえから」と先輩風を吹かせつつ、「こうやって俺の子分を社内に増やしていく」と、社内の勢力図を変えようとたくらむのだった。

魑魅魍魎のごとき気配の正体は「株主」

漫画マネーの拳 7巻P73『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 社員1人の感情よりも、事業の遅延を恐れる花岡。だが彼は、オフィスの窓の外に魑魅魍魎のごとき気配を感じていた。それは、「株主」の存在だ。

 上場したT-BOXは、証券取引所で株式を売買される存在となった。そこで求められるのは四半期ごとの業績開示である。

 計画どおりに事業が進んでいなければ、市場の株主たちの失望を招く。それは会社の評価や株価に悪影響を与え、さらに状況次第ではこの先、経営陣への信任にも関わりかねない。

 上場して初めて感じる重圧。そして自身や経営陣が向き合うべき方向の変化を案じて、「プライベートカンパニーからパブリックカンパニーになったことを徹底させなくては…」と花岡はつぶやく。

 上場は投資家や創業者がリターンを出すタイミングであることから、スタートアップの世界では「イグジット(出口)」と言われるが、経営者にとっては通過地点に過ぎない。イグジットという言葉が示す軽やかさとは裏腹に、終わらない緊張の始まりであることを示したエピソードではないだろうか。

 上場しても課題の尽きない花岡たち。今度は週刊誌が「T-BOXの役員は元ホームレスである」と報じたことで、社内に衝撃が走る。

漫画マネーの拳 7巻P74『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 7巻P75『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク