高市早苗首相の信任投票となった2月の衆院選は、自民党が単独で3分の2を超える歴史的大勝をした一方で、立憲民主と(与党から野党になった)公明党が組んだ中道改革連合は議席を3分の1に減らす歴史的大敗を喫し、「リベラルの退潮」が論壇をにぎわした。

 だがこれは日本だけの現象ではなく、アメリカでも2024年の大統領選で民主党のカマラ・ハリスがドナルド・トランプに敗れ、同時に行なわれた選挙でも共和党が上下両院で多数派を占める「トリプルレッド」を許したことから、リベラル=民主党の失敗がさかんに論じられた。ジョン・B・ジュディスとルイ・テイシェイラの『アメリカ民主党 失敗の本質 「中間層・労働者」は、なぜ「トランプ支持」に突き動かされたのか』(会田弘継解説、古川範和訳/東洋経済新報社)は、これまで民主党を支持してきた代表的な2人の言論人が、リベラルの“病理”をきびしく批判した書として話題を呼んだ。

世界中で「リベラルが退潮」している理由とは?  メリトクラシーの不愉快な現実Prazis / PIXTA(ピクスタ)

 原題は“Where Have All the Democrats Gone?; The Soul of the Party in the Age of Extremes(民主党はどこへ行った? 過激化の時代における党の魂)”で、リベラルに愛された反戦歌「花はどこへ行った(Where have all the flowers gone?)」にかけている。

白人の比率が減って人種マイノリティが増えれば、民主党が有利になるといわれていた

 著者のジュディスとテイシェラは2002年に刊行した“The Emerging Democratic Majority(勃興する民主多数派)”で、大学教育を受けた専門職やシングル女性、マイノリティの有権者が増えつづけることで、2010年までには民主党が多数派を確立すると予測した。

 2008年、オバマが「初の黒人大統領」になると同時に、上下両院を制する「トリプルブルー」を達成したことで、著者たちの予測は的中したように思われた。だがそれからわずか2年後の中間選挙で共和党は下院の奪還に成功し、6州の知事選で勝利した。そして16年には、圧勝を予想されていたヒラリー・クリントンがトランプに敗れる番狂わせが起きる。

 結局、著者たちが予想したような「民主党支持の多数派」は現われなかった。「我々は、そして民主党は、どこで誤ったのか?」を検証するのが本書の目的だ。

 著者たちの主張はきわめて明快だ。各種の選挙結果を見ても、専門職や高学歴女性など「新たな民主多数派」が増えていることは間違いない。ではなぜ選挙に勝てなくなったかというと、それ以上に従来の支持者を失ったからだ。それが(主に白人の)労働者階級で、かつては民主党が「庶民の党」、共和党が「(白人)エリートの党」だったにもかかわらず、今日ではその立場が逆転してしまった。

 原書は2023年に刊行されたが、その翌年の大統領選で著者たちの分析が正しいことが確認された。トランプとハリスの得票率では、白人労働者階級(おおむね非大卒)は63%対36%でトランプを支持し、男性に限れば69%対30%だった。さらに農村部でも、有権者は69%対30%でトランプを支持した。

 これまで黒人有権者のほぼ90%が民主党を支持していたことから、白人の比率が減って人種マイノリティ(有色人種)が増えれば、民主党が有利になるといわれていた。だが2024年の大統領選では、黒人男性の21%がトランプを支持した。より衝撃的なのはヒスパニック系有権者で、民主党は70%以上の支持を当然と見なしていたが、実際にはハリスは53%しか獲得できず、ヒスパニック系男性では46%対52%で敗北した。

 その一方で、東部や西海岸などリベラルな州では民主党の優位は安定しているから、著者たちが間違っていたとはいえない。すでにさんざん指摘されているが、支持率が拮抗した中西部の「スイングステート」で白人労働者階級の支持を失ったことが民主党の苦境を招いたのだ。

 著者たちはその理由を、共和党の政策が優れていたからではなく、人種問題やジェンダー問題で民主党が過激な勢力の台頭を許したことによる自滅だとする。本書第1部では、民主党がまだ「労働者の党」だった古き良きニューディールの時代から、クリントン、オバマ、バイデン時代へと「エリートの党」に変質していく歴史が語られる。これはアメリカの現代史として興味深いが、詳細は本を読んでいただくとして、ここでは私なりに「メリトクラシー」からこの事態を説明してみたい。