たとえば、投手が本格的に筋力トレーニングに取り組むという発想は、一部の選手を除き、一般的ではなく、本拠地だった西武ドーム(現ベルーナドーム)のトレーニングルームには、バーベルを担ぐためのフリーラックが1台もありませんでした。そして、メンタルトレーニングに対する偏見も根強く、「そんなのはメンタルが弱いやつがやるものだ」と、どこか後ろ指をさされるような風潮があったのも事実です。
しかし、僕はそこにこそ勝機があると感じていたため、筋力トレーニングやメンタルトレーニングのメリットを本で読み漁り、10年後にはそれらを行なうのが当たり前になる時代が来ると感じました。
みんなと同じことをしても身体能力お化けたちには勝てませんが、まだみんなが取り組んでいない領域ならば、身体能力で劣る自分でも「先行者利益」を得られるかもしれない。そう感じた僕は、まず5年計画で徹底的に身体をつくり直すことを決意すると同時に、敬遠されがちだったメンタルトレーニングの世界にも、深く飛び込んでいくことにしたのです。
プロの世界で生き抜くために
「ゴール」と「KPI」を設定
メンタルトレーニングと聞くと、多くの人は呼吸で落ち着く方法や、緊張をコントロールするテクニックを想像するかもしれません。もちろんそれらも重要な要素の1つではありますが、僕が学んだメンタルトレーニングの最も大切な核心は、「ゴール設定」と「KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)設定」です。
この視点を持って周りを見渡したとき、多くの場合、「成功の定義」があまりにも曖昧になっていることに気がつきました。
「今年は8勝できたから、来年は10勝したい」
「今年は打率2割7分だったから、来シーズンは3割を目指したい」
『こうやって、僕は戦い続けてきた。』(菊池雄星、PHP研究所)
なぜ10勝なのか、3割を打つために具体的に何をどう改善するのか、という解像度の高い分析はなく、「誰よりも練習する」「10時間練習する」といった行動計画しかないことに気がついたのです。従って、「がむしゃらに練習すること」が目標になっているケースがほとんどでした。
身長という、努力ではどうにもならない要素は平均レベル。スプリント能力やジャンプ力といった、アスリートの身体能力を測る重要な指標は、軒並みチームでも下位のほうだった僕が、才能溢れる怪物たちと同じ土俵で戦い、生き残っていくためには、彼らとは違う武器を手にしなければなりません。
まだ周囲が本格的に取り組んでいなかった、中長期的な視点でのトレーニング計画と、メンタルトレーニングによる具体的な「ゴール」を設定することこそが、僕がプロの世界で生き抜くための、唯一の道でした。







