邸宅にはプールの周りに大きな池がある。昔、飼いネコがワニに食べられそうになったのよ、と奥さんが笑っている。

 ここメイヨー・クリニックでは十分な給与が定額制でもらえるので、ムリな手術をする必要がないからハッピーなんだ、とオラシオ。

 アメリカには、基本給に加えて「手術歩合制(たくさん手術をするとその分報酬がもらえる)」が採用されている病院もあって、そういうトコでは必要性の乏しい手術に手を付ける方向に力が働くこともあるんだよ、と教えてくれた。

 日本の外科医も基本的には定額制で手術をしているが(手術をたくさんしたとて、その分給料が増えるわけではない)、その金額はメイヨー・クリニックの医師と雲泥の差があるのだろう。収入は仕方がないとして、ココロだけは「泥」に沈みたくないな……。

患者の大きさから手術費用まで
日本とは何もかもが違う

 そしていよいよ、終着地ニューヨーク。肝胆膵外科界の最高峰とされる「スローン(メモリアル・スローン・ケタリング・キャンサーセンター)」をゴールに選んだ。

 憧れの手術室に入ると、これまでに見た中で最も大柄な患者が、巨体をベッドからはみ出させるように横たわっている。「アメリカ人の体格と日本人とは違う(だから、日本式の手術はムリだ)」と話では聞いていたが、実際に目の当たりにして、「どう違うか」初めて理解できた。

 単に体重や体脂肪率の問題ではないのだ。日本では太った患者さんでも、お腹を十分に大きく開ければ、内臓が「ある程度見えるし、手の届く範囲」にある。しかしここでは、切除すべき膵臓が「地底か?」と思うくらい深くて暗い闇に沈んでいる。

 工業用と間違うような大きな歯車型の器具がベッドに取りつけられ、創縁をグッと牽引すると、お腹がガッと開かれる。

 そして、日本ではめったに使わない長いピンセットやハサミを使って手術が進んでいく。ドバっと出血することもあるが、さして慌てたふうもなく止血され、膵頭十二指腸切除が終了した。

 確かに、3時間しか経っていない!