ロボットと開腹手術の
無視できないアンバランス

 ピッツバーグ滞在の最終日、メリッサがランチに誘ってくれた。彼女は、この複雑極まりないロボット手術をすでに100例以上執刀しているという。「ところで、開腹手術で膵頭十二指腸切除はどのくらいやったことがあるの?」と聞くと、「そうね、2、3例かしら」とおどけて見せた。

 まず開腹手術の鍛錬から始まる古典的日本式教育法とは全然違う!

 確かに、その方がロボット手術を習得するには早道だろう。だが、もし途中で大出血して開腹手術に移行した時、経験の少ない外科医が止血できるのかな……と、他人事ならぬ「アメリカ事」として心配になった。

 ゴールは目前だが、ここで進路を南に変え、メイヨー・クリニック・フロリダを訪ねる。全国から有能なスタッフを招聘し、歴代大統領をはじめ世界中のVIPに治療を提供してきた、超名門私立病院グループの診療を見てみたかったのだ。

 美しく整備された芝生、南国の花々、池と噴水に囲まれた広大な土地の中に、純白の病院が鎮座している。建物の中にまで陽の光が届き、各部署のスタッフがゆったりと仕事をしていた。

無理に手術数を増やさなくても
高収入が保証される

 今回のホストは、高名な内視鏡外科医であるオラシオ・アズバン教授。親しみを込めてファーストネームで呼ばせてもらうが、オラシオもガイエ先生(編集部注/内視鏡手術のパイオニアであるブリス・ガイエ)さながら、6時間程度で内視鏡の膵頭十二指腸切除を終わらせていた。

 彼は手術支援ロボットを使わないので、針と糸を使った縫合の操作には高度に洗練された「手作業」が求められるのだが、オラシオのテクニックは素早く精密だった。

 しかしそれでも、病院の中には「あいつの膵切除は遅い」と陰口を叩く者がいるらしい。別の外科医が開腹手術で同じ手術をすれば3時間で終わるから、とのこと。

 オラシオはある日、「我が家にディナーにおいでよ」と招待してくれた。

 彼のスーパーカーは街の入り口にある大きなゲートの前で止まり、そこでセキュリティチェックを受ける。富裕層向けに、街ひとつがまるごと塀で隔離されているのだ(ゲーテッド・コミュニティ)。