ところが、彼らは笑って言った。

「いや、がんの摘出じゃないよ。この方は数年前に、左の腎臓を別の患者に提供しているんだ。今回は肝臓の右側を提供するけど、どっちの手術もレシピエントは親戚でも友人でもないし、このドナーが全然知らない人なのさ」

 ボランティア・ドナーと言って、金銭の授受がない・臓器の一部を失っても自分の健康に支障がない、などの審査を通れば、「見知らぬ誰かのために、自分の腎臓や肝臓を役立ててください」という形の生体移植が許可されているらしい。

 キリスト教の宗教観もあるのだろう。基本的に親族しか生体ドナーになれない日本の肝移植と全然違う。

圧倒的なスピード感を誇る
ロボットを使った切除手術

 3週目はピッツバーグ大学医療センター。かなり東海岸に近づいた。

 なぜここを選んだかというと、世界で一番「ロボットを使った膵頭十二指腸切除」を行っている施設だったからだ。この術式は日本ではまだ保険適用になっておらず、がん研で導入の準備を進めていた。

 実は、ピッツバーグを訪問するのは2回目なのだが、相変わらずオペがめちゃくちゃ――僕の開腹手術よりも――速い!

 なぜなら、ロボットを操作する女性医師メリッサと同時に、助手として術野にいるプロフェッサーが別の部分の切除をちゃきちゃき進めるスタイルだからだ。

 術野の展開法や使用する針糸の種類が、場面ごとに統一されている。アメリカ中から患者が集まり、手術後1週間も経たずに退院するという。論文通り、日本の3分の1の入院期間だ。

 しかし、患者は必ずしも自宅に帰っているわけではなかった。病院より費用のかからない近隣のホテルに移って、経過観察期間を置いているのだ。

 このような背景を無視して、一方的に「日本の入院期間が長い」と批判するのはアンフェアだろう。同時に、日本も「手術前のレベルに完全に回復するまで手術した病院にいて、しかも大安吉日に退院する」という患者のマインドと、「治療の必要が乏しくても、ベッドが空床になるよりは入院していてもらった方が病院に利益が出る」保険制度を修正して、早期退院の環境を整えないと、医療がパンクする日が近いのかもしれない。