FGRの施設で待機していると「トンネルに入れる」と言われた。シルヴェスター・スタローンに似たタフガイっぽい雰囲気の責任者が同行してくれることになった。私は心の中で「ランボー」氏と呼ぶことにしていた。ちなみに少し後でスタローンに似てるねと本人に伝えたところ「よく言われるが、あんなにマッチョじゃないよ」と気さくに返してくれた。

 面白がるのも束の間でここでも部外秘のブリーフィングが行われる。一応、外国メディアの取材ということで何かあってもFGR側が責任を負うことはないという内容だった。だが、実際には危険性は低いのだろう。ランボー氏が同行すると申し出てきたからだ。FGRのティファナでのトップが参加となると、現場的なリスクは流石にそれほどでもないはずだ。

 出発の時点で私の悪い虫が少し疼き出していた。

麻薬カルテルは綿密な計画と
高い技術力でトンネルを構築

 国境近くの倉庫の前に先行していたFGRの車が停まった。どうやらここのようだ。

 壁までの距離としては100メートル前後だろうか。道路を挟んで壁の前にメキシコ側のなんらかの施設がある。この下にトンネルがあるのだろうか。入り口がどこかによるが、アメリカ側に入るには最短でも300~500メートルのトンネルが必要になる。しかし、カルテルはそんなことはなんとも思っていないだろう。

 エル・チャポ(ホアキン・グスマン)が2015年に脱獄した際に使用したトンネルの距離は、約1.5キロメートル(約1マイル)だった。このトンネルは、アルティプラーノ刑務所の彼の独房のシャワールームから始まり、地下10メートルほどの深さに掘られていた。

 トンネル内には照明と換気設備が備えられており、脱出用のオートバイも用意されていた。このトンネルはエル・チャポが属していたシナロア・カルテルによる綿密な計画と工事技術の高さを示すもので、私が取材した限りでは技術者をドイツから呼び寄せて組織のメンバーが掘削技術などを習得したとされていた。

 麻薬カルテルにはトンネル構築の高い技術力が間違いなくある。カルテルのトンネル掘削技術があれば、数キロのトンネルを人知れず完成させることも不可能ではないのだ。