なお、人間を含む哺乳類の多くはストレスを感じると体温が上昇する。この実験でもフェレット恐怖にさらされたハムスターには直後に体温上昇がみられ、上昇率の高い個体は、恐怖体験後24時間の走行量の増加も大きかった。

 さらに、この実験では、ふだん飼育ケージに回し車があって走っていると、実験者が触るというマイルドなストレスを感じにくい(体温上昇が小さい)という結果も報告されている。日頃から走っているとストレス耐性ができるということだ。

 しかし、そうしたストレス予防処置は、フェレット恐怖には効かなかった。回し車のあるケージで飼育された個体も、回し車がないケージで飼育された個体と同程度の大きな体温上昇がみられたのである。

 動物園の檻の前でライオンやトラが左右に行ったり来たりするようすを見た人は多いだろう。ラクダやキリンが柵を何度も何度もなめたり、左右に体を揺すり続けるといったこともよく観察される。こうした行動は常同行動(ステレオタイプ行動)と呼ばれる。

 心理学や動物学における常同行動の定義は、反復的で、動作に変化が乏しく、明確な目的が不明な(適応的な機能をもたないように思える)もの、である。回し車でネズミが走るのはこの定義にまさに当てはまる。

 常同行動は、拘束やストレス、環境の単調さなどの要因によって引き起こされる異常行動の1つとされている。たしかにネズミは飼育ケージという狭い人工環境に閉じ込められていて、野生に比べると環境は極めて単調だ。回し車で走るようすは楽しげでもあるが、あまりの熱狂に異常さを感じることがなくもない。

 では、ネズミが回し車に自分で入って走るのは、狭いところで飼っているためだろうか。

野生のネズミも
回し車に入るのか?

 この問題にユニークな方法で挑戦したオランダの研究者たちがいる。野生のネズミが生息していそうなところに、直径24cmの回し車と動画カメラを設置したのだ(ネズミをおびき寄せるために餌も置いた)。

 3年におよぶ動画記録を調べたところ、実際にネズミを含む多くの小動物が回し車に入って走っていた。最も多かったのが小型の野ネズミで、中には18分間も連続して走り続けたものがいたという。次に多かったのは、なんとナメクジだった。大型の野ネズミ、ジネズミ、カエル、カタツムリも回し車を動かしていた。