野生のネズミもわざわざ回し車に入って走るという事実から、この研究者たちは、回し車で走るのは異常行動ではないと論じている。また、常同行動という言葉は異常行動の1種であることをふつうは意味するので、回し車での走行が常同行動の定義に合致していても、常同行動だとみなすべきではないとしている。

 この見解に対しては、野生のネズミが回し車で走るからといって、実験動物やペットのネズミが回し車で走るのも正常だと結論するのは間違っているという研究者もいる。なぜなら、異常行動は正常な行動から発展することが多いからだ。

書影『ネズミはなぜ回し車で走るのか』(中島定彦、岩波書店)『ネズミはなぜ回し車で走るのか』(中島定彦、岩波書店)

 野生のネズミが回し車で走るという研究結果そのものに普遍性があるかも問われなければならない。実は、オランダでの研究に刺激を受けて、南米パラグアイの研究者らが同様の試みを行っている。

 動画カメラを分析したところ、野外に置いた回し車に野生動物が近づいた回数は1857回、そのうち大型の野ネズミが1591回、小型の野ネズミが149回、有袋類のオポッサムは117回だった。だが、回し車に入って走った回数はわずか2回(大型の野ネズミが1回、オポッサムが1回)で、しかも走行時間はともに9秒と短かった。つまり、野生のネズミが回し車に入って走ることは、きわめてまれだということになる。

 パラグアイの研究者らの調査はわずか3カ月だった。オランダの研究者らの調査期間(3年)と比べると短いが、パラグアイでの調査でも野生動物は回し車に近づいていた。しかし、走ったのは約2000回のうちたった2回(約0.1%)に過ぎない。オランダでの研究では、回し車に野生動物が近づいて動画カメラが作動した回数は約20万、うち走った動画は約1万2000だったそうだから、約6%である。60倍もの開きがあるのだ。

「野生のネズミもわざわざ回し車に入って走る」というには、まだ研究が不足している。ネズミの種類や自然環境の諸条件、季節などの要因が、回し車を使うかどうかを決めているのかもしれない。