他国の国旗を背景にした香港の国旗写真はイメージです Photo:PIXTA

あなたの街の隣人が、外国政府の意向を受けた工作員に監視されていたとしたら――。2024年、英国でそれが現実となった。発端は、一見ただの借金取りによる住宅侵入未遂だった。しかし、押収されたスマートフォンの記録から、事態は一変。そこに残されていたのは、香港を逃れて英国に暮らす民主活動家たちの監視情報や、香港政府関係者との生々しいやり取りだった。これは単なる刑事事件ではない。香港政府の出先機関が、欧州で情報収集や監視活動に関与していたのではないかという疑惑――いわば「現代版スパイ事件」の詳細が明らかになろうとしているのだ。(フリーランスライター ふるまいよしこ)

世界中の香港人が見守る裁判~発端は「借金取り立て」に見えた

 世界がイラン情勢に注目する中、英国では現在、世界中の香港人が固唾をのんで見守る「香港スパイ事件」の裁判が進んでいる。日本ではほとんど報じられていないこの事件は、単なる個別の刑事事件ではなく、香港政府機関の知られざる海外活動に対する英国の警戒を引き起こす出来事となっている。

 きっかけは2024年5月、英北部ウェスト・ヨークシャー州で起きた、個人住宅「突入」事件だった。

 2023年末に香港から引っ越してきた女性とその子どもたちが暮らすマンションに、男女9人が押し入り、待ち構えていた警察に逮捕された。彼らは、この女性が香港の元勤務先から約1.6億香港ドル(約33億円)を持ち逃げしたと主張しており、当初は民事上の金銭トラブルに見えた。

 だが、逮捕者の一人が隠し持っていたスマートフォンの通信記録が、事件の性質を一変させた。そこには、住宅突入計画だけでなく、英国や欧州に逃れた香港の民主活動家の監視データや、香港政府関係者との生々しいやり取りが克明に残されていたのだ。

 そこから、事件は一気にスパイ疑惑へと発展した。