「それならぜひやらせてほしい」と、「Blue Dragon」のメロディを基にした歌バージョン、「Aesthetic」を制作することにした。感動的なシーンでこの曲が流れれば、視聴者はより音楽に注目してくれるのではないか、という狙いがあった。

 この頃から、僕はサウンドトラックという媒体を通して、自分の音楽そのものにも視聴者の興味を惹きつけたいと考えるようになっていた。その中で、“歌モノ”の楽曲をサウンドトラックに収録することが、極めて重要な戦略だと考えていたのだ。

 『医龍』で歌モノを作ってもいいという許可が出た時、「これは、聴く人の心に引っかかるような曲にしなければならない」と強く意識した。ゴールデンタイムのドラマという性質を考えれば、アップテンポな曲よりも、感動的なシーンで流れるバラードの方が視聴者の心に響き、音楽への興味を喚起しやすいだろう。そうしたアプローチで「Aesthetic」を完成させた。

歌モノのBGMは
視聴者の心に刺さりやすい

 結果的に『医龍』は、幸運にも僕が作りたいと思っていたオーケストラ曲、デジタルサウンドの曲、そして歌モノといった、自分の音楽的志向を存分に詰め込むことができた作品となった。

 そして、ドラマ自体が多くの視聴者の注目を集めたことで、サウンドトラックにも反響があった。特に「Aesthetic」は着うたランキングで上位に入るなど、予想以上の広がりを見せた。メディアのニュース記事でも、サウンドトラックの反響について取り上げてもらえた。

 自分が「やりたい」と心から思って作った音楽が、劇伴業界における自分の「名刺代わり」となったのは、本当に重要な経験だった。

 劇伴に歌モノを取り入れるというアプローチは、以前から考えていたことだった。そのきっかけはいくつかある。1つは、単純に僕自身が歌の曲を作りたいという強い欲求を持っていたことだ。

 ASKAさんや小室哲哉さんに影響を受け、もともとは歌モノを作る作曲家を目指していた経緯がある。劇伴の世界に入ってからも、菅野よう子さん(注1)のように、劇中に歌を効果的に取り入れるスタイルに憧れていた。

(注1)宮城県出身の作・編曲家、音楽プロデューサー。映画、ドラマ、CM、アニメ、ゲーム音楽をはじめ、さまざまなアーティストへの楽曲提供、プロデュースワークを手掛ける。代表作は『カウボーイビバップ』『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』『マクロスF』他。