ジャーナリスト 池上 彰氏池上 彰氏 Photo:JIJI

善悪の区別がつく子に育ってほしいとどの親も願っているが、学校教育だけでは倫理観は十分に育たない。大切なのは日々の何気ない会話。親がかける言葉が、子どもの心の成長に大きく影響を及ぼすからだ。家庭でできる教育のあり方を、池上彰が教える。※本稿は、ジャーナリストの池上 彰『法で裁けない正義の行方』(主婦の友社)の一部を抜粋・編集したものです。

なぜ人を殺してはダメかと
子どもに聞かれたら?

 知人の子どもで小学2年生の子の、ある日の道徳の授業は、有名な昔話「金の斧・銀の斧」を題材に「嘘をついてはいけません」ということを教える内容だったそうです。

 あらすじを簡単に書くと、ある日正直者の木こりが、泉に斧を落としてしまいました。すると泉の中から女神が出てきて、美しい斧を見せながら「あなたが落としたのは、この金の斧ですか、銀の斧ですか」と聞きます。木こりが「違います」と答えると、女神は「こちらの斧ですか」と本人の斧を見せました。木こりが「その斧が私のものです」と正直に答えたところ、その正直さに女神は感心し、すべての斧をプレゼントしました。

 この話を聞きつけた欲張りな男が、真似をして自分の斧をわざと泉に落とします。女神が出てきて同じように質問すると、男は「私が落としたのは、その金の斧です!」と嘘をつきました。女神は怒って、斧をひとつも渡さずに去っていく、という話です。

 道徳の授業で先生は、「金の斧・銀の斧」の話について「みんなはどう思いますか?」と、児童たちに意見を発表させました。

 児童たちの大多数は「嘘をついてはだめだ」と発表し、民主主義的な結論で授業が終わったそうです。