同氏が野球に例を求めたのは、当時の日本でその人気がいかに高かったかの証明とも言えるだろう。

雨で発走遅延のピンチをつないだ
懸命な名解説に込めた願い

「只今の所、東京地方は昨夜来の雨でございます。グランドコンディションが悪く雨中のレースでありますがために、多少延刻いたしまして、只今第十競馬であるこの東京優駿大競走のレースの、すぐ一つ前の第九競馬が行われているのでございます」。延々と続くダービーについての解説は、発走時刻が遅れているための“つなぎ”だった。しかしそれは、東京優駿大競走創設の核心部分にも迫る。

 いわく、東京競馬倶楽部が農林省の許可を受けて、「競馬の競技にあまりに偏重される弊に陥る事を避けまして、そうして一意、我が国情に照らし、堅実強健で、しかも持久力に富む馬を産することをもって、広く日本全国の優駿な馬を求め、そうして競馬と生産者と、または育成者と、つまり直接産馬家との連繋をますます密接たらしめまして、そうしてこの競馬をして、真に馬匹改良施設の資料たらしめることを目的とし、広く日本全国の、昭和四年生まれの内国産馬の優駿を求めたのが、そもそもこの優駿大競走の趣意とする所であります」。その言い回しが少々堅いのは、東京競馬倶楽部や農林省提供の資料を引用したからだろう。

 この後も、東京優駿の開催計画発表以来、どのように出走馬が絞り込まれてきたかを、競走馬の生産と育成システムの説明を交えながら解説。競馬入門書も顔負けの話を続けた末に、次のような“念押し”までしてしまう。

「なおお断りを致しますことは、ほかのスポーツ、野球とかあるいは陸上競技のように始終躍動するものをお知らせするのではありませんので、多少これには我が軍馬主義、我が国家国防上馬事奨励、こんなような意味も多少含んでの実況放送でございますから、お飽きになることなく、これから約十五六分後に行われる所の、天下の名馬を誇る十九頭が鼻先を合せて競い合う、この馬場の活況を御想像願って(中略)、お好みの馬に対し称讃と感激と、それから興味を持って実況放送をお聞き下さることをお願いする訳でございます」。ここまでたたみかけられたら、謹んで聞くしかない!