フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える

発売から19年、フルモデルチェンジゼロ。にもかかわらず、三菱デリカD:5は2025年度に過去最高の販売台数を叩き出した。なぜこのクルマは古びないのか。デリカのファンは、どこを魅力に感じて乗り続けているのか?開発者に聞いていきます。なお今週は本編に入る前に、深セン訪問記を掲載。合わせてどうぞ!(コラムニスト フェルディナント・ヤマグチ)

40年前は人口3万人の漁村だった深セン

 みなさまごきげんよう。
 フェルディナント・ヤマグチでございます。
 今週も明るく楽しくヨタ話から参りましょう。

 息子と、中国は深センに来ております。1979年、ここはただの漁村でした。人口わずか3万人。広東省南端にある、香港との境界線に張り付いた小さな地方都市でした。翌80年。鄧小平の鶴の一声で中国初の「経済特区」に指定されます。盛大に外資を呼び込んで、資本主義の実証実験をやろうというのです。

平安金融中心(Ping An Finance Centre)高さ599.1m。地上115階。深センで1番、世界で5番目に高いという平安金融中心(Ping An Finance Centre)に登ってきました Photo by Ferdinand Yamaguchi

「近代化」の名のもとに、社会主義国家が自らの体制に風穴を開けるのですから、それはそれは大変な決断だったでしょう。そこからがすごい。人類史上例を見ない速度で発展を遂げた。人口3万人の漁村が、わずか40年で1800万人の巨大都市に成長し、2018年の名目GDPではついに香港を抜いてしまった。

ファーウェイ、DJI、BYD……世界の孫請け工場から産まれた巨人たち

 90年代までは香港から材料を持ち込んで、安い労働力で組み立てて輸出する、いわば「世界の孫請け工場」だったのですが、2000年代に入ると徐々に地場のメーカーが育ち始めます。華為技術(ファーウェイ)、中興通訊(ZTE)、ドローンのDJI。そしてもちろんBYDも。

 シリコンバレーのエンジニアが、「プロトタイプを作るなら深セン」と言うのもうなずけます。ここに来れば、彼らが生んだアイデアを、翌日には基板に載せられるからです。

ファーウェイのショールームファーウェイのショールーム。市民の憩いの場になっています Photo by F.Y.
ショールームで展示されるクルマショールームでは、ファーウェイと提携するクルマも展示されています Photo by F.Y.

街を走るクルマはほとんど電気自動車(EV)

 街中を歩くと、走っているクルマのほとんどがEVであることに気付きます。だから街が異様に静かです(しかし、彼らはやたらとクラクションを鳴らすので、別の意味で騒々しいですが……)。

「2017年に世界初の市内公共バス完全EV化を達成」と報じられました。「公共」ではない一部観光バス等はいまだにエンジン車も走っていましたが、まあこの辺りはご愛嬌。

 それでもEV比率が圧倒的に高いのはまぎれもない事実です。ナンバープレートを見れば一目瞭然。中国ではEV・PHEVは緑色のプレートで、ガソリン車は青。一目で分かるのです。

威容を誇るDJIのショールーム威容を誇るDJIのショールーム。最新製品を見て触れます Photo by F.Y.
新製品を見たいと言ったら、「それでは屋上にどうぞ」と新製品を見たいと言ったら、「それでは屋上にどうぞ」と。ショールーム横の片側3車線の道を時速80キロで走るクルマをロックオンして自動追従したのには驚きました。あっという間にドローンが視界から消えてしまったので、「大丈夫?ロストしないの?」と聞いたら、「見えなくなっても大丈夫。15キロ先までコントロールできるので」と。こんなすごい装置を市販しているのだからエライもんです Photo by F.Y.

 BYDはもちろん、NIO、小鵬、理想、ファーウェイが技術供与するAITO、と見たことも聞いたこともないブランドのクルマがたくさん走っています。デザインも決して侮れない……どころか、普通にカッコ良い。EV後退が叫ばれる昨今ですが、長期的に見ればEVの時代は必ず来ます。

街を走る無数のEVは「国家のエネルギー管理の末端デバイス」

 日本もウカウカしていられない……という議論は置いておいて、ここで申し上げたいのは、彼らが目指している「次」が、単なる動力源の置き換えではないことです。EVは充電という行為を通じて電力網と常時つながっている。個人の「移動の自由」を担保するはずのクルマが、国家のエネルギー需給予測と物理的に直結しているという事実があります。

 中国ではEV・充電インフラのデータ連携が非常に強く、深センでもV2G(Vehicle to Grid:クルマのバッテリーの電気を電力網に送る技術)の大規模実証が始まっている。電力と移動の統合管理へ向かう方向性は明白です。街を走る無数のクルマは、実は「国家のエネルギー・マネジメントの末端デバイス」というわけです。

ボロボロな配送のクルマこんなにボロボロな配送のクルマもEVです Photo by F.Y.

「電気を管理される」というヤバさは、これまでの文明とは次元が異なります。監視カメラによる個人の追跡が「行動」の監視だとすれば、EVを介した管理は「都市の生存そのもの」の支配に他なりません。物見遊山の観光旅行でしたが、いろいろと考えさせられる旅でございました。

 ということで本編へと参りましょう。三菱デリカD:5の開発者インタビューであります。

三菱自動車「デリカD:5」三菱自動車「デリカD:5」(広報写真)