この土地の値引きの詳細は、2019年5月に『週刊文春』が報じている(清武英利、小野悠史、週刊文春取材班)。

 記事によれば、選手村の地価は、1平方メートルあたり9万6800円と鑑定され、周辺相場の10分の1から20分の1という破格の安値で開発事業者に渡った。開発事業者とは、三井不動産レジデンシャルを代表に、不動産大手が名を連ねる11社の企業連合だ。

 2017年に社会問題となった森友学園への国有地払い下げは8億円の値引きで連日トップニュースだったが、選手村に至っては、1500億円という耳を疑うようなディスカウントが行われたことになる。

 こうした経緯もあって、分譲マンションの販売価格は相場よりはるかに安い坪単価200万円台でスタートしたが、それでもモデルルームが公開され、事前案内が始まった2019年頃の来場者はまばらで、反応も芳しくなかった。

 2020年4月に緊急事態宣言が発令されたあとはさらに悲惨で、販売現場はお通夜ムード一色だった。

五輪選手がSNSにアップした
美しい夕焼けの写真で状況は一変

 しかし、時を同じくして人々の関心は、コロナ禍で長い時間を過ごす「家」へと向かっていた。家計支援のために行われた個人給付や企業支援の膨大なマネーが不動産や株式市場に流れることになる。

 さらに晴海フラッグが一気に見直される奇跡が、五輪期間中の2021年7月23日~8月8日の17日間に起きた。ベランダからの夕焼けだ。この世のものとは思えないほど美しい夕焼けが、連日東京湾を照らし、各国からやってきた1万人をこえる選手たちがその様子を目撃した。

 スマートフォンをかざし、次々とSNSにアップして、日本の自然の美しさに驚嘆し、賞賛した。それが全世界に発信され、名実ともに晴海フラッグが五輪レガシーとしてふさわしい評価を受け始めたのである。

 五輪が終わり、翌月9月30日に緊急事態宣言が解除されるやモデルルームには人々が殺到した。10時の開場前から行列ができ、その列は100メートルを越え、北京語や広東語が飛び交った。すべての部屋が抽選となり、抽選会場に貼り出された表には、120倍、130倍という数字が並んだ。