売主には、個人もいれば、明らかな転売ヤーもいた。後に10階の1戸を残して、9戸は売却した。売値は、1億9800万円前後に設定し、利益を得た。
海とレインボーブリッジを真正面に見る10階の部屋を見せてもらった。絶景だった。視界の左側に海、右側に東京タワーや港区のビル群が見えた。ベランダに出ると、せり出しが2メートルはありそうで、テーブルや椅子を置けば第2のリビングになる。ここでビールでも飲めば最高だ。海風もそよそよと頬をなでる。下を見れば、東京とは思えないほどの木々の緑が目にしみた。
自宅は車で10分くらいの別の場所にあるという。晴海フラッグに来るのは月に数える程度だ。
「仕事で行き詰まった時や考え事をしたい時、ここにきて、海を見るんです。頭の中が整理されていいですよ。同じようにセカンドハウスとして使っている経営者は多いと思いますよ」
配慮が行き届いた住環境は
民間ではなし得ない
私はタワマンコレクターの橋本智氏に聞いた。
「晴海フラッグが割安で投資効率がいいのは理解できます。それ以外の魅力は何ですか」
彼は、即答した。
「国策は買い、ちゅう言葉があるでしょう」
晴海フラッグはいわば官民合同のプロジェクトであり、さまざまな恩恵を受けている点を指摘した。
例えば洪水・高潮・津波ハザードマップを見ると、晴海フラッグの所在地、中央区晴海5丁目は、海に面しているにもかかわらず、浸水想定区域に含まれていない。対岸の豊海町側から晴海フラッグを見るとよくわかるが、4メートルくらい地面が高くなっている。防潮のために盛り土がされたのだと思われる。民間だけでこれほどの基盤整備を行うのは容易ではない。
前述の『週刊文春』の記事によれば、東京都は、こうした整備工事に、540億円の予算を計上していたという。
敷地内を歩けば、電線は地下に埋設されて、景観がいい。三井不動産によれば4500本もの植栽が配され、春の桜、夏の新緑、秋の紅葉と彩りが楽しめるという。
歩行者を優先に、駐車場はすべて地下に配置され、「歩車分離」が実現されている。車の出入り口は街区ごとに1カ所に集約され、宅配の集荷やごみ収集なども地下で完結されるようになっていて、地上を行き交う車の量を減らしている。地下の自走式駐車場は、2214台分もあるそうだ。
これまでさまざまな新築マンションを見てきたが、あれほど巨大な地下駐車場は見たことがない。マンションに多い機械式駐車場がない分、地上の空地率は50%もあり、広い中庭は散歩コースになる。子育て世帯や高齢者が安心して暮らせる工夫がなされていた。
晴海フラッグから徒歩圏内に建築中の「ザ 豊海タワー マリン&スカイ」は、申込殺到の53階建てのツインの高層タワーマンションで、海に面してレインボーブリッジを望む立地は素晴らしい。しかし、晴海フラッグを見た後に立ち寄ると、周辺道路の狭さや、その狭い道路を行き交う車の交通量が気になってしまう。道路幅が3.5メートル以上もあり、植栽やベンチも多い晴海フラッグとはまったく違う。改めて官民一体プロジェクトの強さを確認できる。
『強欲不動産 令和バブルの熱源に迫る』(吉松こころ、文藝春秋)
「国策は買い」と言った橋本氏は続ける。
「前の東京五輪の時やって、元は陸軍の練兵場だったところが整備されたわけでしょう。今どうですか、代々木公園一帯いうたら一等地です。最近の話なら大阪やってそうでしょう。万博をやって、海外からの注目を集めとるでしょう。ホテルは絶好調やし、大阪のタワマン価格だって倍以上になってまっせ」
私は、2025年5月に大阪で見たインバウンドの波とタワマンの値上がりを思い出した。
「地下鉄の夢洲駅だって、万博のために作ったわけでしょう。国が動くっちゅうことは、とてつもない金が動くんです。ちょっと昔の夢洲あたり一帯を知っている人なら考えられない変化ですねん。だから投資家として考えた時、国策は買いなんです」







