政府がなすべきはリスク投資ではない
新しいタイプの規制が必要か?

 ミトスが引き起こした問題は極めて重要なものだが、いまのところ現実に問題が生じたわけではないし、その他の分野で同様の問題が生じているわけではない。

 ただし、従来の枠組みで17の戦略分野の選定を考えても、重要分野をいま固定すると、発展方向が固定されることのほかにも、問題は多い。

 第一に、政府がすべきは、新しい分野に自らリスクをとって投資をすることではない。 なぜなら、将来の社会で、どのような技術が本当に重要なものになるかは、現時点では分からない場合が多いからだ。つまり、新技術に対する投資は極めてリスクが高い投資だ。

 この点で、政府が民間企業よりも、優れた情報を持っているわけでは必ずしもない。むしろ多くの場合、判断のための情報は、民間企業の現場の最前線でしか得られないものが多いだろう。だから、リスク投資は民間企業に任せるべきだ。

 では、経済全体の技術開発能力を高めていくために、政府がすべきことは何か?

 それは特定の技術開発を支援し、そのために投資を行ってリスクを取ることではない。

 政府が行うべきは、新しい技術開発とその応用のための環境と条件を整えることだ。具体的には、第一に、新技術導入の妨げになる規制を緩和することだ。そして第二は、新技術開発とその利用に必要とされる人材の育成だ。

 ここで「人材の育成」とは、プログラマーの育成というような、現在の技術体系を前提とした人材の育成のことではない。将来起こりうる変化に対応できる能力を持った人材の育成だ。

 このためには、大学や大学院における教育・研究を政府が支えることが必要だ。

 これに加えて、「クロード・ミトス」の登場という新しい事態の展開を踏まえれば、技術開発に関して政府が規制することも、重要な課題になるのかもしれない。

 AIの方向付けについて規制が必要という考えは、これまでもヨーロッパでは強かった。いま、その重要性が全世界的にクローズアップされている。

「新しいタイプの規制」が具体的にどのようなものになるかは、全く分からない。現にいま、ミトスに対してどのような規制を行うべきかが、全く分からないのだ。

 当面、一般公開を見送り、グーグルやアップルなど一部の企業に試験的利用を認めて対策を考えることとしているが、そのようなことでよいのかどうかも分からない。

 人類はいま、「新技術の規制」という問題に関して、これまで経験したことがない事態に直面しているのだ。

(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)