多くの人は、そこで「何とかしよう」とします。気合いを入れ直したり、ポジティブに考えようとしたり、緊張しない方法を探したり、「メンタルを鍛える」とされる取り組みに手を伸ばしたりします。あなたもきっと、自分なりに工夫し、努力してきたはずです。

 それでも同じことが繰り返されると、次第に「努力の方向」ではなく、「自分という人間」に原因があるような気がしてくるものです。そしていつの間にか、「自分はメンタルが弱い」という言葉が、事実のように心に居座ってしまうのです。

「メンタルスキル」は
誰でも伸ばすことができる

 しかし、渡米してスポーツ心理学を学んだことで、その前提は根本から覆されました。大学院でスポーツ心理学を学ぶ中で、衝撃を受けたのが「メンタルスキル」という考え方でした。

 実力を発揮するための「心の科学」であるスポーツ心理学では、メンタルは性格や気質の問題ではなく、後天的に学び、磨き、使うことのできるスキル(技術)として捉えられていたのです。

 それは、「メンタルが弱い人が強くなる」という話ではありません。「別の人間に生まれ変わる」という話でもありません。今の自分のままでも、思考や内側で起きていることの“扱い方”を変えることで、パフォーマンスは変えられる、という視点です。

 思考の扱い方を理解し、磨き、使えるようになれば、誰でも、いつからでも、どんな状況でも、自分の力を発揮できる可能性を高めることができる。その事実を知ったとき、私は強く勇気づけられました。

「ずっと付き合うしかない“弱さ”ではなかったのだ」そう思えたからです。

 一方で、世の中では今もなお、「メンタルが強い」「メンタルが弱い」という言葉が、あたかも人の本質や性格を表すかのように使われ続けています。

 それは、プロスポーツの世界も例外ではありません。私が、2025年に福岡ソフトバンクホークスで初めて選手たちと挨拶を交わしたときも、多くの選手が、ごく自然にこう口にしていました。

「自分はメンタルが弱くて……」
「メンタルが強くなりたいです」

 その言葉の裏には、メンタルに対してこれまで何度も同じ壁にぶつかってきた経験や、何とかしようとしてきた努力が、はっきりと感じられました。