2019年4月から施行された時間外・休日労働時間の
上限規制の影響を受けた労働者の割合

高市早苗首相は、4月22日に首相官邸で開催された日本成長戦略会議において、裁量労働制の拡大に向けた検討を加速するよう指示した。
背景には、裁量労働制の適用範囲の拡大を目指す経済団体の要望がある。例えば日本経済団体連合会(経団連)は、過半数労働組合がある企業において、労使で対象業務を決定できる仕組みの創設を主張している。実現すれば、労働時間に応じた賃金支払いという労働基準法の原則から外れる裁量労働制の適用範囲が大幅に拡大することが予想される。
経営者が裁量労働制の適用範囲の拡大を求める根底には、2019年4月施行の働き方改革関連法で時間外・休日労働時間の上限(原則、月45時間・年360時間)が設けられ、長時間労働が厳しく制限されるようになったことがある。労働時間規制が厳しくなった分、規制にかからない労働者の範囲を広げてほしいというわけだ。
このような主張の妥当性を評価するためには、働き方改革関連法がもたらした効果を評価する必要がある。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小川一葉氏と筆者はこの政策変更の効果を、リクルートの提供するデータを用いて計量的に評価し、経済産業研究所のディスカッション・ペーパーとして公表した。
働き方改革による新たな労働時間規制の影響を受けたと考えられる労働者は、全体の7.7%だ。分析の結果、これらの労働者は影響を受けないその他の労働者に比べて労働時間が大幅に減少した一方、年収は減らず、時間当たり賃金が上がったことが分かった。労働時間が短くなってもスキル習得の機会が減ることはなく、副業に従事する確率は上がったものの、その時間は極めて限定的であった。懸念されていた副作用が観察されない一方で、メンタル面を中心に健康状態の改善が見られるなど、プラスの効果も観察された。
裁量労働制のやみくもな拡大は、このようにプラスの効果をもたらした働き方改革関連法を骨抜きにしかねない。真に裁量をもって働く労働者に拡大範囲を限定するよう慎重に検討すべきだ。
(東京大学公共政策大学院 教授 川口大司)







