高市政権「働きたい改革」に不可欠な制度設計の要素Photo:Pool/gettyimages

高市政権が掲げる「労働時間規制の見直し」は公平な働き方の観点からも検討すべきである。労働者が自らの意思で働き方を選べる「選択的自由」を重視した制度設計こそが真の働き方改革である。欧米の制度との比較から、今後の政策設計の方向性を探る。(昭和女子大学特命教授 八代尚宏)

労働時間規制緩和を
公平な働き方の視点から考える

 高市早苗首相は新政権が発足した10月21日に、「心身の健康維持と従業者の選択を前提にした労働時間規制の緩和の検討」を上野賢一郎厚生労働相に指示した。この「労働時間の規制緩和」については、「過労死を助長する」という条件反射が付き物だが、「公平な働き方」という視点からも考える必要がある。

 2019年に施行された働き方改革関連法は、残業時間の上限について、原則として月45時間、最大でも100時間未満、年間では720時間と定め、違反した場合には罰則を定めた。この画一的な規制が、もっと働きたい人の制約となっているのではないかという懸念を生んでいる。

 この問題については、労働者をできるだけ長い時間働かせたい企業側と、それに反対する労働側の対立というステレオタイプの見方は誤っている。

 労働時間の規制には、米国型の残業割り増し手当による間接的な規制と欧州型の労働時間の上限を決める規制の二つがある。

 日本では、この両者を組み合わせて、日8時間、週40時間の上限を超えて働く場合には残業手当と労使協定(36協定)が必要とする。さらに月45時間以上の残業を行う場合には、労働組合との合意が必要な特別条項が義務付けられている。

 もっとも、この残業時間の上限規制は有名無実で、残業手当増加を受け入れる労働組合との合意で、事実上、青天井の残業が行われていた。このため、たとえ労使の合意があったとしても、超えられない労働時間の上限が法律で定められたのであった。

 今回の「労働時間の制限を超えて働きたい従業者の自由な選択」という要請について、すでに法定化されている残業時間の上限規制を一律に緩和することは妥当ではない。むしろ一定の条件の下で、労働時間規制の「適用除外」の要件を見直し、個人の選択による働き方の自由度を高める方向で制度設計を行うべきである。

 次ページでは、具体的な制度設計に向けて必要な要素について考察する。