原体験から導かれた「純度の高いクラシック」
自社の強みも見直した。富士フイルムはカメラメーカーとしては後発だが、長年にわたってフィルムを供給してきた実績があり、「色づくりの力」は抜きん出ている。加えて、放送用レンズで高い評価を得てきた「フジノンレンズ」という資産がある。一般的な知名度こそ低いが、優れた描写力で世界中のテレビや映画の撮影を支えてきた名レンズだ。
これらを掛け合わせれば、大型センサーにこだわらなくても富士フイルムらしい高画質が実現できる。スペックを追うのではなく「撮る楽しさ」を追求しよう──。〈世界中のカメラファンが、一目で“良いカメラ”と分かるカメラ〉というコンセプトも自然に決まった。
完成イメージを可視化するに当たって、今井が参照したのは自分自身の原体験だ。
「僕にとって“良いカメラ”を最初に認識したのは、子どもの頃、父の部屋にあったクラシックカメラでした」
父から「これは触ってはいけない」と言い渡されていたそのカメラは、キャビネットの一番いい場所に鎮座していた。黒い革をまとった端正な金属のボディ、角張ったフォルム、吸い込まれるように大きなレンズ、重厚なたたずまい。それら全てに特別なオーラがあった。
今井が表現しようとしたのは「純度の高いクラシック」だ。
富士フイルム〈X100 Ⅵ〉Photo by YUMIKO ASAKURA
「フォルクスワーゲンが1990年代に伝説の名車・ビートルをよみがえらせたように、モダンに再解釈することで表現できるクラシックもある。その方向も考えましたが、やはり原体験のたたずまいを具現化したい、すなわちクラシックとしての純度を高めたい。デザイナーのエゴの含有量をできる限り減らして、100年以上の歴史が育んだカメラそのものの様式美を真っすぐ引用したいと思ったのです」
ただし、迷いもあった。
“良いカメラ”というコンセプトには、「誇れるカメラを作りたい」という作り手側の夢も込められている。カメラとして本質的な革新性がないまま、見た目だけをオーセンティックにすれば、ただの懐古趣味になりかねない。
幸運にも、技術側からの画期的な提案で迷いが一掃された。光学ファインダーと電子ファインダーを瞬時に切り替えられる「ハイブリッドビューファインダー」。目の前の世界をそのまま捉えつつ、写真の仕上がりイメージも確認できる世界に例のない機構。デジタル時代の撮影体験の再創造といっても過言ではなかった。
「すごいカメラができる」とチーム全員が確信し、今井の覚悟も決まった。これが冒頭のモックアップ発表の場面につながっていく。発売から15年、もはやXシリーズが提示したクラシックが「富士フイルムらしさ」として定着した感がある。
自分の「好き」を事業に投影してもいい。個の思いを研ぎ澄ました先に「みんなの好き・共感」を生み出せる──。Xシリーズは、今井のそんな確信を育んだ仕事になった。







