個人を起点に、長く愛されるブランドが育つ

「自分」と「世界」のピントを合わせるデザイン――富士フイルム〈X100〉・今井雅純MASAZUMI IMAI
富士フイルムデザインマネージャー。2003年富士フイルム入社。11年発売の新カテゴリプレミアムデジタルカメラ・初代X100のプロダクトデザインを担当。その後プレイングマネージャーとしてX/GFXシリーズ開発の中心的役割を担い、各部門との協業や先行デザインを通じラインナップ育成に注力。
Photo by YUMIKO ASAKURA

 思えば、子どもの頃から自分の「好き」と世の中の「流行」はズレていた、と今井は振り返る。テレビの人気番組やはやりのゲームに興味が持てず、オーディオや車のカタログを読み込むような少年だった。

 強くひき付けられるのは、グラフィカルなものよりメカニカルなもの。装飾よりも緻密な機構。デザイナーという職業を意識したきっかけは、高校生の頃に雑誌で見たランボルギーニ〈ディアブロ〉の斜め後ろの姿に心を撃ち抜かれたことだった。

 美大ではプロダクトデザインを専攻し、「要件をいかに形に落とし込むか」を鍛えられた。与えられた条件をどう解釈し、自分の思いをどう重ねていくか。制約の中からクリエイティブな突破口を探るプロセスに面白さを感じた。

 もちろん、実際に製品化する過程では苦労も多い。X100でも、クラシカルな外観に快適な操作性を落とし込むのは簡単ではなかった。設計チームと連携し、時には対立しながら一つ一つハードルを越えていかなくてはならない。

 初代モデルでは、解決しきれずに積み残した課題もある。背面モニターの収まりはその一例だ。ボディは薄く仕上げたいが、中身の制約でどうしてもモニター部分は収まらず段差ができる。第2世代、第3世代……と改良を重ね、第5世代でモニターの角度を変える機能を盛り込みながら、美しいフルフラットな背面へとたどり着いた。

 こうした苦労も含めて、インハウスのプロダクトデザインの仕事にはロマンがある、と今井は言う。

「個人の思いを起点に、共感され、技術で補強され、量産化のための工夫を重ねて、製品として世の中に問うていく。うまく育てば、それは群れになり、強い事業になります。さらに、長くユーザーに使われ続ければ文化にまで影響を与えます」

 最初はとがった個人の思いでしかなかったものが、長い時間軸の中でじわじわとDNAになっていく。

「現在のメインストリーム以外にも、良い落としどころはあるはずだという感覚があります。だからこそ『これも良くない?』と、別軸を提案し続けるのが自分の仕事みたいなところがある。でも、ふと気付くと営業や企画、設計のメンバーも、それを自分たちの言葉として語ってくれるようになっている。いい組織だなあと思いますね」

 25年に発売されたXシリーズの新作〈X half(エックスハーフ)〉は、ハーフサイズカメラをモチーフに、フィルムのような表現を楽しめる遊び心のあるカメラだ。これも、同社の若いデザイナーの発想から実現したという。

「気持ちを高揚させる製品の起点には、やっぱり個の思いが必要です。同時に、周囲のサポートがなければそれを具現化するのは難しい。僕自身も周囲にサポートされてきましたから、今後は、担当者が自分自身の思いに気付くこと、そしてそれを共感へと昇華させることへのサポートにより一層力を注いでいきたいと思っています」