共感で、デザインの射程を広げる
デザイナーとして、常に「自分が心から納得していないものを世に出すこと」への強い拒否感がある。
「自分が本当に愛せるものしか売っちゃいけない。ものづくり人(にん)の責任として、そう思います」
しかし、それは自分の「好き」を何がなんでも押し通すことではない。
「X100の開発初期には、複数のデザイナーがそれぞれにいいと思うものを展開しました。関係者全員が新機種にふさわしい姿を考えた結果、僕のデザインが採用されましたが、その後のシリーズ展開では、初期に他のメンバーが提案していたような方向性も検討しています」
そもそも自分の感覚を起点にする限り、「独り善がり」に陥るリスクが付きまとう。今井は、周囲の共感を軸にすることで、自分の感覚を意識的に広げているという。
「自分の推しがA案でも、他のみんながB案と言うならそれも取り入れながらアジャストしていきます。周囲の共感度は非常に大事にしています」
それは「妥協」とは違うのだろうか。
「妥協というより、幅を探索するイメージです。好きな音楽だって幅がありますよね。食わず嫌いだったジャンルを友達から勧められて好きになることもある。他人の共感を軸に、自分の嗜好の外に目を向ければ、新しいエッセンスを取り込めます」
今井の言う「本当に愛せる」とは、強い嗜好の表明というよりクオリティラインの判断基準に近い。ユーザーとして手に取って、触って、他と比較した上で、それでもお金を払って手に入れたい、と本心から思えるかどうか。
「熱心なユーザーとしての感覚と、引いた目線で冷静にジャッジする感覚。デザインに責任を持つためには、どちらも必要だと思っています」
それは、他者のデザインをマネジメントする場合も同じだ。
「部下のデザインを見るときも、その個性を最大限尊重しながら、本人が心から良いと思える内容に届くまで助言します。ただしその場合の僕の視点は、個人というより、自分も含むブランド全体にシフトしている感覚はあります」
インダストリアルデザインの父と呼ばれたレイモンド・ローウィは、優れたプロダクトデザインを、シンプルに「Most Advanced Yet Acceptable──最も先進的で、それでいて受け入れやすい」と表現した。
確かに、〈FinePix〉を追い詰めたiPhoneは言うに及ばず、X100にも先進性と親しみやすさが絶妙なバランスで共存している。個の思いが先進性をドライブし、共感が受け入れやすさを広げる。本来は、ズレがちな両者が重なる場所を見つけようとする営み。それがデザインなのかもしれない。







