そういえば筆者自身、テレビを見ない日はあっても、近所の西友で山本選手にはほぼ毎日ご挨拶している。「いつも、トライがある。」のキャッチコピーも、いつの間にか脳裏に刷り込まれていた。トライアルがインストアサイネージの開発に力を入れる理由は、ここにある。

「リテールメディアはブランディングから認知、想起、そして購買まで一気通貫で展開できて効率がよく、しかも安価なんです。現在メーカーのマーケティング予算の多くはマス広告にあてられています。私たちは以前からリテールメディアを提唱してきましたが、実績がついてきたことで、いよいよ本格化できるかなと」(石橋さん)

「売る」のではなく「ファン」を作る

 こうしたリテールメディア事業を仕掛けるのが、石橋さんが代表を務めるトライアルテクノロジーだ。AIやデータを駆使したテック領域の収益化を担う。

 実は、トライアルの祖業はIT事業だ。1980年代からPOSシステムを開発し、小売り業者に売り込むも「導入実績がない」と断られ、「ならば自分たちで店を出して証明しよう」というのが、小売りに本格進出した原点だった。

 現在は数百人のエンジニアを擁し、ハードウェアからソフトウェアまで自社で作り込む。安くて身近なスーパーと、国内トップクラスのリテールAI企業。この2つの顔を持つからこその戦略が、トライアルの面白さだ。

単発の売上よりも、メーカーと小売が共通のファンを増やすことを重視しているという単発の売り上げよりも、メーカーと小売りが共通のファンを増やすことを重視しているという Photo by M.S.

 石橋さんは、インストアサイネージの狙いを「商品を売るためというより、メーカーと一緒に共通のファンを作りたい」と語る。

 ただし、インストアサイネージを見て1回買っただけでは、「ファン」とは呼べないだろう。ビールや生鮮食品は、4~5回繰り返し買うと「自分の定番」として馴染むというデータがある。そこでトライアルは、インストアサイネージと売り場の大量陳列をセットで展開し、まず1回目の購入を生み出す。その後は購買履歴をもとに、1to1マーケティングの要領で、レシートやアプリ、ショッピングカートにクーポンを表示し、次の購入を後押しする。こうした一連の設計で、衝動買いからファンを育んでいるのだ。