「ひとりひとりに合わせた広告を流したが、売り上げにつながらなかった」
インストアサイネージが今の形になるまでは、試行錯誤の連続だったという。石橋さんは、「パーソナライズもやってみたが、うまくいかなかった」と振り返る。数年前、トライアルはサイネージの前に立った来店客をAIカメラで識別し、属性に応じた広告を流す仕組みを開発した。だが、売り上げにはつながらなかった。インストアサイネージに関しては、クーポンのように個人ごとに細かく出し分けても効果が出ないことが判明したのだ。
現在は、12時にはお弁当と飲み物、18時には唐揚げとビールといったように、時間帯ごとに需要の山を狙って配信している。「デジタルの世界は何が正解か分からない。だからまずはやってみる。ダメならすぐ切り替える。失敗は財産です」と石橋さん。この身軽さが、トライアルの真骨頂だ。
こうした発想は、メーカーとの関係性にも現れている。小売り業界では、メーカーに「失敗のない手堅い提案」を求めるのが一般的だ。だが、トライアルはそうではない。
「積極的に試して、うまくいかなかったら一緒にリカバリーしましょう、と。その中で学びがあるし、何度も試すうちに正解に近づいていく。このフィードバックループを回せるのが、我々の強みです」(石橋さん)
他の小売りにノウハウが流れることにも、抵抗はないようだ。
「基本的な考え方が、IT企業なんですよね。我々だけにノウハウをとどめるのではなく、メーカーや卸を通じて、他の小売にも広まっていい。そのほうが、業界全体が良くなります。それに、私たちには必ず先行者メリットがありますから」(石橋さん)
インストアサイネージが、映像と音声で商品の価値を届ける。売り場のPOPや陳列と連動することで、販促効果を高める Photo by M.S.
多くの小売りと協調し、リテールメディア市場を確立したい
インストアサイネージは現在、広告枠がほぼ埋まる「満稿状態」(広告スペースに空きがない状態)で、メーカーからの需要は高まる一方だ。石橋さんの次の狙いは、この流れを小売り業界全体に広げることだ。
「多くの小売りと手を組み、リテールメディア市場を確立したい。そうすれば、もっとお客さまに伝わるメディアになりますし、販促効果も高まる。メーカーにとって、より無駄のない投資ができるようになるんです」(石橋さん)
九州では、一見ライバルのイオン九州、西鉄ストアなどとともに「九州リテールメディア連合会」を発足。あるメーカーの練りからしの広告を複数チェーンで同時配信したところ、なんと北部九州のシェア1位が入れ替わったという。
そもそも小売りの役割の一つは、メーカーが丹精込めて作った商品と、それを求める客とを効率よくマッチングすることにある。いつものスーパーの、見慣れた売り場。なぜこの商品をカゴに入れたのか、立ち止まって考えてみたら、きっと新しい発見があるはずだ。








