令和7年版防衛白書は、とりわけ中国や北朝鮮、ロシアによるサイバー攻撃への対応が重要なものだとしている。

 例えば、中国のサイバー部隊が、台湾の基幹インフラのネットワークに対して段階的、継続的な侵入を試みていることを指摘している。台湾有事の際に、中国軍は台湾に対する作戦を支援するためサイバー攻撃を行い、台湾の基幹インフラを破壊する能力を有しているとしている。

 また中国は、2019年に発表した国防白書「新時代における中国の国防」で、「軍によるサイバー空間における能力構築を加速させる」としており、実際に、サイバー空間で技術窃取や、国外の敵対者の監視活動を日常的に実施している。

 北朝鮮は、貿易取引の制限などさまざまな国際的な制裁措置が課せられているため、外貨の獲得が難しい。そこで、外貨を獲得するための手段として、サイバー攻撃を利用しているとみられる。また、軍事機密情報の窃取などを行っている。

 24年に発表された国連安保理の報告書によると、北朝鮮はランサムウエアなどを用いて、外貨収入の約5割をサイバー攻撃によって得ており、これらが核・ミサイル開発などの大量破壊兵器計画の資金源になっている。

 情報収集の主たる対象国は、韓国、アメリカと日本だ。また、人材育成は国家機関が行っている。サイバー部隊を集中的に増強し、約6800人で運用中だ。

 ロシアでは、軍参謀本部情報総局、連邦保安庁、対外情報庁がサイバー攻撃に関与していると指摘される。また、軍でサイバー部隊の存在が明らかとなっている。サイバー部隊は、敵の指揮・統制システムへのマルウエアの挿入を含む攻撃的なサイバー活動を担っており、その要員は約1000人だ。

区別なくなった戦闘員と非戦闘員、戦場と非戦場
世界中が戦場と化し大きな不確実性

 サイバーセキュリティーをめぐる環境は、我々が気づかないうちに、大きく変化してしまったのかもしれない。

 これまでの戦争でも一般市民が犠牲になることはあったが、サイバー戦ではもともと、戦闘員と非戦闘員の区別がない。

 一方に、国家が支える高い専門知識を持った専門家の集団があり、他方に、セキュリティーにはそれほど注意を払っていない(正確には払う余裕のない)民間経済の活動がある。そしてある時、突然、被害が発生する。

 サイバー攻撃は、戦時と平時の区別なしに行われる。そこで戦場と非戦場の区別もない。あるいは、いつも戦時なのであり、世界中が戦場と化してしまったと考える方が適切かもしれない。

 そうした状況を、生成AIの進歩がさらに加速した。生成AIミトスは、ごく短時間のうちにシステムの脆弱(ぜいじゃく)性を発見することができる。それを悪用すれば、脆弱点を抱えたシステムは、それを補修する時間もなく、突然、攻撃にさらされることになる。

 我々が住んでいる世界は、大きな不確実性に支配されることになった。

注1 「イラン、ほぼ『全面的なインターネット遮断』状態に――米軍の攻撃開始で」(Forbes,2026.03.01)
注2 令和7年版防衛白書、第Ⅰ部第4章、第3節「サイバー領域をめぐる動向」
注3 「AI性能『米中の差ほぼなし』米スタンフォード大が年次報告書」(2026年4月14日付日本経済新聞)

(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)