一方で、アフリカ系の父とイングランド系の母との間に生まれた彼女に対して「厳密には黒人女優の受賞でない」とする論者がアメリカ国内には存在するほど偏見の根は深く、実際のところ2025年現在もハル・ベリーは未だ唯一の黒人の主演女優賞受賞者だという厳しい現実が垣間見られます。それだけに、『それでも夜は明ける』の3年後、『ムーンライト』(2016)が第89回の作品賞に輝いたことには、大きな意味があったのです。
高齢白人男性が中心だった
保守的なアカデミーの転換点
“白すぎるオスカー”騒動があった当時、黒人女性初の映画芸術科学アカデミーの35代会長だったシェリル・ブーン・アイザックス(任期2013~2017)も、失望感を表明しています。
A2020委員会(編集部注/映画芸術科学アカデミーの投票会員の多様性を向上させ、偏見の是正し改革するために設置されたタスクフォース)を設立したシェリル・ブーン・アイザックスは、2020年までに女性や黒人の割合を引き上げ、映画芸術科学アカデミーの会員数を2倍に増やすという計画を立てました。そのため、2016年に新たな683名の会員を迎えたことを報告。注目すべきは、アメリカ国内だけでなく50カ国の映画人に招待状を送った点です。
例えば、アンドリュー・ガーフィールドやエマ・ワトソン(英国)、アリシア・ヴィキャンデル(スウェーデン)、イ・ビョンホン(韓国)。日本では俳優部門に仲代達矢、監督部門に黒沢清、脚本部門に河瀨直美、北野武、是枝裕和、アニメ部門に米林宏昌、西村義明など13名に対して招待状が送られたと発表され、世界規模で積極的に声をかけていくという入会方式に方向転換したのです。
『アカデミー賞入門』(松崎健夫、KADOKAWA)
2012年の調査では、投票権を持つアカデミー会員のうち、94%が白人で、76%が男性、80%が50歳以上(平均年齢63歳)というデータが発表されていました。このことからもわかるように、映画芸術科学アカデミーは「高い年齢層の白人男性による保守的な傾向」があるとの批判がありました。
ちなみに同調査における有色人種の占める割合は2%、ラテン系も2%でした。A2020委員会の一時的な期限となった2020年には、819名の新たな会員を招待しています。その内訳は、45%が女性、36%が有色人種、49%がアメリカ以外の国籍(68カ国)と発表。会員比率に対する変化を徐々にもたらそうと努力していたことがうかがえます。
この結果、アカデミー賞の候補者のうち2008年から2015年まではマイノリティに属する人々が全体の8%だったのに対して、2016年から2023年の改革により17%にまで増加。女性の候補者も全体の21%から27%に増加しています。こういった変化は、「黒人俳優が主役の映画は海外セールスが難しい」あるいは「40歳以上の女性が主人公の映画は興行的に当たらない」といった通念を変えてゆくことにも繋がり、やがて映画業界の体質そのものを変えるに至るでしょう。







