電気代・ガス代の補助も再開へ
6月以降、燃料高が料金に反映

 問題はガソリンだけではない。原油や天然ガス、石炭などの燃料価格が高止まりすれば、電気料金やガス料金にも影響が及ぶ。6月以降には、大手電力会社などの料金に燃料高が本格的に反映されると予想されている。

 家計にとって電気・ガス料金は避けられない支出だ。特に夏場に向けて電気料金が上昇すれば、冷房使用を控えることによる健康被害も懸念される。

 市首相は5月18日の政府与党連絡会議で7~9月期の電気・ガス料金に対する補助を再開する考えを表明、具体策のとりまとめを指示した。

 しかし、ここでも同じ問題が生じる。電気代やガス代を補助すれば、消費者物価指数は抑えられる。したがって実質賃金も改善して見える。しかし、その分だけ財政支出は増える。つまり、物価高の痛みを家計から政府財政へ移しているだけであり、経済全体としての負担が消えるわけではない。

エネルギー節約のインセンティブ起きず
国際的な省エネ要請に日本は逆行

 さらに問題なのは、価格を抑えれば、エネルギー消費を減らすインセンティブが弱まることだ。原油や天然ガスが不足し、国際価格が上昇しているとき、本来であれば、需要を抑える必要がある。ところが、政府が価格を抑えれば、消費者や企業は危機の深刻さを、価格を通じて感じにくくなる。

 国際エネルギー機関(IEA)は、世界的なエネルギー危機に対応するため、各国政府や企業に対して在宅勤務の活用や公共交通機関の利用促進、自動車利用の抑制、冷暖房温度の調整などの、エネルギー節約策を示している。

 エネルギー供給が制約される局面では、価格補助だけでなく、需要そのものを抑える政策が必要になるのだ。

 これに対応して、韓国や東南アジア諸国では、エネルギー消費を控える動きが広がっている。国際的には、エネルギー価格の上昇を単に補助金で打ち消すのでなく、消費の抑制や省エネを組み合わせて対応する方向が強まっている。

 これに対して日本の政策は、価格を抑えることに重点を置いている。これによって家計の負担は一時的に軽くなるが、同時に、エネルギー消費を抑える信号を弱めることにもなる。

 エネルギー危機の局面で、本来、必要なのは、単に価格上昇を抑え込むことではない。家計や中小企業への支援は必要だが、それは省エネ、需要抑制、代替エネルギーの活用、物流や働き方の見直しと組み合わせるべきだ。

 日本は国際的な省エネ要請とは逆に、価格を抑え、消費を維持する政策に傾いている。そして、実質賃金の伸び率プラスという数字の背後で、財政負担とエネルギー消費の問題が拡大している。

 統計の表面だけを見るのではなく、そのプラスを誰が、どのような負担で支えているのかを問う必要がある。

(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)