サラリーマンでありながらサンダンス映画祭で日本人初のグランプリを受賞した映画監督/脚本家の長久允氏。その思考法を存分に伝える『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』から、抜粋・再構成し、作品づくりの根幹に迫る。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

脚本の教室Photo: Adobe Stock

感情を起点に世の中を見る

「この作品をつくろう」と決めるのは、自分の心が動いたときです。

 サンダンス映画祭でグランプリを受賞した『そうして私たちはプールに金魚を、』という映画も、元となった事件がSNSなどで消費的拡散をされるのを見て違和感を持ったのがきっかけでした。

 ――狭山市プールに金魚。犯人は15歳。キレイだろうなと思って。

 そう書かれて拡散されるヤフトピの1行には「本当のこと」はないのではないか、と感じたのです。

 このように、ニュースを見るときは、よく感じて考えます。

 政治のこと、社会問題のこと、国際課題のこと、最近起きた事件。

 どうしてそれが起きてしまったのか。それに対しての周りの反応はどうか。自分はどう感じたのか。

 それらをまっさらな気持ちで感じること、考えることを日々積み重ねています。

 ニュースには人間の愚かさと努力の「現実」が詰め込まれているように感じます。また、それらへの思案を続けることで、自分が社会に、人間に、どうあってほしいかという「理想」をイメージさせてくれます。

 その「現実」と「理想」は必ず、自分から放出される物語に影響してくるはず。

とっておきの裏技はあなたの「思い出」

 そして、さらに裏技的に使えるのが「絶対誰にも言いたくない思い出を書く」ということです。

 人には皆、親にも友人にも恋人にも、絶対に誰にも言いたくない思い出があるはず。私もあります。

 そんなものもちろん、脚本になんかしたくないですよね。知り合いどころか会ったこともない人に知られてしまうわけですから。

 だけど、腹を括ってみましょう。そこを、切り売りしてみましょう。それはきっとあなたにとって大事な、もしくは醜悪な事件だったと言えるでしょう。

 それはつまり、強い物語であるということでもあるのです。

 また、あなたが人に言えない感情は、きっと同じ経験をした世界のどこかにいる誰かも同じ気持ちかもしれません。もしその人が観たら、強く深く共鳴してくれるでしょう。

 これは裏技で、まったくもって強制しません。

 だけど、きっと、書いてみたら、「ああ、私はこのために脚本を書こうとしていたんだな」と思えるかもしれない。

 私にもまだ誰にも言っていない、誰にも言いたくない大事な思い出があります。そろそろ書くときが近い予感がしています。