結果、この主張は退けられ、眞須美は健治や知人男性にヒ素を飲ませたと認定されたのだが、ここにも疑問が存在した。

「被害者」であるはずの健治が裁判で「ヒ素は保険金を騙し取るため、自分で飲んでいた」と眞須美の主張を裏づける証言していることだ。

 健治は、眞須美と共謀して3件の保険金詐欺をはたらいたとして懲役6年の判決を受け、2005年6月まで滋賀刑務所で服役し、出所後は和歌山で一人暮らしをしている。

「みんなでワイワイ楽しく
保険金詐欺をやっていたんです」

 私はこの間、健治とは数え切れないほど対話を重ねたが、自身が眞須美にヒ素を飲まされたことになっている件に関する健治の主張は以下のようなものだ。

「裁判官は、『林健治は妻をかばっている』として私の証言を信用しませんでした。しかし、ヒ素は飲むと大変なことになるんです。私が眞須美から死亡保険金目当てにヒ素を飲まされたのであれば、眞須美のことをうらみこそすれ、かばうわけがないでしょう」

眞須美の夫の健治。裁判では「被害者」と認定されたが、法廷の内外で眞須美の無実を訴えている眞須美の夫の健治。裁判では「被害者」と認定されたが、法廷の内外で眞須美の無実を訴えている。同書より転載

 予断を排し、虚心坦懐にこの言葉を聞けば、健治が眞須美にヒ素を飲まされながら、嘘をついてまで眞須美をかばうことなどありえないと誰もが思うのではないか。

 一方、眞須美の裁判で健治と共に死亡保険目当てにヒ素を飲まされた被害者と認定された知人男性は、林家に居候していた泉克典という無職の男だ。健治と眞須美によると、泉をはじめ、林家に出入りしていた人物たちの多くが保険金詐欺の共犯者だったという。

 健治はこう語っている。

「世間の人は『ヒ素で保険金詐欺』と聞くと、怖いと思うようですが、私らはみんなでワイワイ楽しく保険金詐欺をやっていたんです。泉は私の真似をしてヒ素も飲んでいましたが、彼は元々、バイクで転倒して交通事故を装う保険金詐欺が得意でした。私や眞須美も交通事故を装う保険金詐欺をやった際は泉にやり方を教わったほどです」