実際、泉については、林夫婦と親しくなる前から多数の「交通事故」を起こしていたことや、ヒ素中毒の症状で病院に入院した際に無断外泊をして林家で麻雀をしていたことなどが裁判で判明している。

有罪の根拠とされた
「目撃証言」への疑問

 それにもかかわらず、泉は保険金詐欺の罪を一切問われていないため、弁護側は「捜査機関が被告人(眞須美)をカレー事件で有罪とするため、泉と不正な取引をして、被害者に仕立て上げたのだ」と主張していた。裁判官には認められなかったが、私には弁護側の主張が正しかったと思える。

 裁判記録を読み進めると、一、二審判決で有罪の証拠とされた目撃証言や物証に関しても首をかしげざるをえない点が散見された。

 まず、目撃証言について見てみると──。

 事件当日、夏祭りで提供されたカレーは地区内の民家のガレージで朝から主婦らが調理し、正午頃に完成後、午後3時頃までガレージでそのまま保管された。この間、何人かの主婦がカレーの見張り番をしているのだが、眞須美はそのうちの1人だった。

 この見張り番をしていた時の眞須美の様子について、ガレージの向かいの家で暮らす高校生の少女が裁判でこんな証言をしている。

「林さんがしきりに道路のほうを気にしながら、カレーの鍋のフタをあけていました」

 一、二審判決共にこの目撃証言に基づき、眞須美が「不審な行動」をしていたとして有罪の根拠に挙げている。

 しかし実際には、この目撃証言は仮に信用できるとしても、眞須美がフタをあけた鍋は、「現場に2つあったカレーの鍋のうち、ヒ素が入っていなかったほうの鍋」に過ぎなかった。

 ヒ素が入っていなかった鍋のフタをあけた程度のことを有罪の根拠にしないといけないというのは、むしろ証拠の乏しさを物語っている。

 なお、眞須美は「見張り番をした時はずっと次女と一緒にいた。鍋のフタをあけたのも、カレーを味見した次女だった」と主張し、次女も裁判で眞須美と同様の証言をしている。