「“言語化”疲れで、“言語化”という言葉にモヤモヤする」
「即答するよりじっくり考えるほうが大事なのでは?」
「別に“口下手”のままでもいいじゃないか!」…
など、まったく新しいコミュ力を説いた書籍『言語化だけじゃ伝わんない –––– 絵を描くように「考える・伝える」技術』が発売された。著者でイラストレーターのヤギワタル氏は、これまで200冊以上の書籍でイラストや装画を担当してきて、今回が初の単著となる。本書では、昨今の「言語化ブーム」に対して警鐘を鳴らし、「言語化“以外”に目を向けること」をイラストレーターならではの視点で面白く解説している。本記事では、その中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

頭の悪い人にかぎって「できないこと」
「エビデンスはありますか?」
「データを見せてください」
仕事では、とても重要な姿勢です。
しかし一方で、数字や文章や資料ばかりを見ているうちに、本当に大切なものを見失ってしまうことがあります。
『言語化だけじゃ伝わんない』では、その危険性を中島敦の短編小説『文字禍(もじか)』を通して解説しています。
そこで描かれているのは、「言葉だけを信じる人」の恐ろしさです。
人は、文字を信じすぎてしまう
本書では、まずこんな物語が紹介されています。
舞台は文字が発明された当時のアッシリア。
文字には精霊が宿っているのではないかという噂が立っていました。
これを深刻に受け止めたアッシリアの大王は、とある老博士を呼び出し、文字の霊がいるとしたらどのようなものなのか、研究するよう命じます。
そこで博士は、文字を覚えた人々の話を聞き、文字を読みあさるようになります。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
文字は便利です。
記録できる。共有できる。後から確認できる。
だから私たちは、つい文字を信じてしまう。
しかし、文字にはひとつ大きな欠点があります。
それは、「書かれたものしか残らない」ということです。
頭の悪い人ほど、「書かれていないもの」を見ない
本書では、物語の中のこんなやり取りが紹介されています。
そして、次のように質問します。
「歴史とは、昔、在った事柄をいうのであろうか? それとも、粘土板の文字をいうのであろうか?」
博士はそれに次のように答えます。
「歴史とは、昔在った事柄で、且つ粘土板に誌されたものである。この二つは同じことではないか。」
しかし歴史家はさらに「書洩らしは?」と尋ねます。博士の答えはこうです。
「書洩らし? 冗談ではない、書かれなかった事は、無かった事じゃ。芽の出ぬ種子は、結局初めから無かったのじゃわい。歴史とはな、この粘土板のことじゃ。」(『中島敦全集1』ちくま文庫、p.46)
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
これは極端な話に見えます。
ですが、私たちも似たようなことをしていないでしょうか。
会議の議事録に書かれていないことは無視する。
アンケート結果だけを見て顧客を理解した気になる。
数字に出ていない問題は存在しないと思う。
つまり、「記録されていない現実」を見ようとしなくなるのです。
本当に大事なのは、言葉になる前の現実
本書では最後にこう語られています。
日々、膨大な言葉に接している私たちは、この老博士のようになっていないでしょうか?
粘土板に書かれた文字はたしかに歴史です。
でも、「書洩らした」ことが「歴史ではない」は言い過ぎでした。
箱のたとえで言うなら、ラベルだけ見て、中身を軽視している状態。
最も肝心なのはラベルではありません。中身です。
言葉に意識を向けすぎると、「言語化されなかったこと」を無視してしまうのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
ここに、この本の大きなメッセージがあります。
頭の悪い人にかぎって、「言葉になっているもの」しか見ません。
マニュアルに書いてあること。報告書に載っていること。数字で表せること。
それだけを見て判断する。
しかし現実には、言語化されていないことのほうが圧倒的に多い。
部下の表情。顧客の違和感。会議室の空気。言葉にならない不満。
本当に大切なことほど、実は記録されていないのです。
賢い人は、「書かれていないもの」を見る
『言語化だけじゃ伝わんない』は、言葉の限界を教えてくれる本です。
言語化は大切です。文章もデータも必要です。
しかし、それだけでは現実を理解できません。
本当に賢い人は、言葉になったものだけでなく、言葉にならなかったものにも目を向けます。
「なぜ誰もこの話をしていないのだろう?」
「この数字の裏で何が起きているのだろう?」
「本人は何も言っていないけれど、本当に大丈夫だろうか?」
そうやって、“書かれなかった現実”を想像する。
それができる人ほど、本質を見抜けるのです。
だから、頭の悪い人にかぎってできないこと。
それは、「言葉になっていないものを見ること」なのです。
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない –––– 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。








