「この建物に住みたいのではなく、この建物に長く住んでいる人たちと同じ場所に身を置きたいのだ」と話されていたのが、強く印象に残っています。
超富裕層にとって、売り物件がなかなか出てこないという事実は、不便ではなくむしろ「良い情報」です。市場に出回らない住まいほど、そこに暮らす価値が高い――情報の少なさそのものを、彼らはそう読み解きます。
中古物件の流通が極端に少ないという事実は、そこに暮らす人々がその住環境に深く満足している、何よりの証拠です。いつ訪れても満席の店が、料理の確かさを静かに物語るのと同じこと。新築の華やかな広告よりも、「20年という時間が選別した結果」のほうを信頼する。これが、彼らの家選びの出発点になっています。
超富裕層が買っているのは
「コミュニティー資本」という見えない資産
ではなぜ、超富裕層はそこまで「時間を経た物件」を重視するのでしょうか。
私は、彼らが本当に手に入れようとしているのは、間取りや立地ではなく、「コミュニティー資本」とでも呼ぶべき無形の資産だと考えています。
社会科学の世界には「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」という概念があります。米国の政治学者ロバート・パットナムらによって体系化されたもので、人と人との信頼やつながり、互いに支え合おうとする規範そのものが、目に見えない「資本」として社会を豊かにするという考え方です。これは個人の財産とは異なり、長い時間をかけて、その場所に関わる人々によって少しずつ育てられていきます。
築20年を経たマンションには、この資本が静かに蓄積されています。長く住み続ける住人同士には、顔の見える関係と、一定のマナーの共有があります。管理組合は何度も総会を重ね、修繕計画は計画倒れではなく実績として検証されています。エントランスの植栽の手入れや、共用部の使われ方を見れば、その建物が「丁寧に扱われてきたかどうか」が一目でわかります。
そして、この資本は日々の暮らしの中で確かな役割を果たします。







