柯 恒大集団の創業者は、共産党の高級幹部を巻き込まないと不動産開発が成功しないと分かっていたので、彼らに賄賂を贈る必要がありました。賄賂はお金だけではありません。例えば恒大集団にはプライベートクラブがあり、その中にカラオケやマッサージ、スパなどがあって、恒大集団が自分たちで作った歌舞団(音楽や舞踊などを披露する団体)もいる。そこで大勢の共産党幹部が接待を受けていたのです。
おそらく創業者は、共産党幹部たちを接待した時の映像や写真をたくさん持っているはずです。これらを表に出してしまうとスキャンダルがどこまで発展するか、どこに飛び火するか、中国政府も相当心配していました。動画や写真などのデータがコピーされて海外のサーバーに預けられた場合、大変なことになる。全部確認が取れるまで詳細な情報を表に出せなかったと考えられます。最近ようやく裁判が動き出したのは、この手のスキャンダルの範囲がだいたい特定できたからなのです。
「俺のところの財産をなぜ査定するんだ」
資産査定を中国の地方政府が妨害!?
――恒大集団の上場廃止や裁判まで時間がかかった理由は、他にもあるのでしょうか?
柯 はい、不動産を購入する際のローンについて、中国独特の事情があります。日本や米国では、未完成のマンションでも契約はできますが、「ローンの実行」はできないんですね。銀行は不動産の引き渡しとほぼ同じタイミングでローンを実行することになっています。トラブルを避けるために法令でそう決まっているわけです。
しかし、中国の場合は、まだ図面の段階でローンが実行されるのです。そうすると、家を買った人はまだ鍵ももらえていないのに、ローンが実行されて頭金も払って、だけど気が付いたらマンションが完成しておらずデベロッパーが倒産した、ということが起こります。恒大集団もそうですが、「未完成の物件」をたくさん生んでしまった。
これを放置すると、買った個人が暴動を起こしてしまいます。銀行もローンを実行したので不良債権が発生します。その関係者の数が膨大ですから、各地方政府も心配するし、暴動が起きないような手当てをしてからでないと情報を出せない、というのが2番目の理由です。
――役人への賄賂、ローン以外にもまだ何か理由がありますか?
柯 はい、地方政府の妨害です。日本や米国では、不動産デベロッパーが倒産したら資産査定が行われ、法律に則って債権者に対して弁償していきます。
しかし、中国の場合はまず資産査定が進まない。恒大集団の本社は深圳(しんせん)ですが、中国の各地方に支社があります。この各々の支社が地方政府と結託しています。
するとどうなるか。例えば上海市にある物件を深圳の本社から派遣された第三者委員会が資産査定しようとすると、上海市政府が妨害するのです。恒大集団という一つの法人ではなく、まるで数十もの別法人になっているようなイメージです。各地方政府が「俺のところの財産をなぜ査定するんだ」と妨害するので、資産査定にものすごく時間がかかるわけです。
債務はたくさんあるのに、資産の金額が分からなければ債務は返せないですよね。深圳の本社部分は分かるものの、地方でどれくらいの資産があるか、物件が完成しているのか、半分しかできていないのか、土地はいくらぐらいなのか、といった査定をしようにも、各地方政府に妨害されてしまうのです。
この3つの原因によって、恒大集団の上場廃止や創業者の裁判まで4年もかかってしまったわけです。
日本のバブル崩壊よりも中国の傷は深い?
「市政府」に飛び火するワケとは
――日本のバブル崩壊では銀行が破綻しましたが、中国はそれを避けようとしたのですか?
柯 中国政府には今、当時の日本のバブル崩壊の状況を知っている人がいないのです。日本の銀行が倒産したのは1990年代後半。北海道拓殖銀行や山一証券、日本長期信用銀行(長銀)などです。あの時、日本に調査に行った人が当時50歳だとすると、今は80歳なので習近平政権の執行部にはいません。だから日本のバブル崩壊を十分に理解していません。
習近平政権も同じミスを犯しているのですが、危機に直面した時に政府や金融機関が「変な期待」を捨てないのです。「少し待てば景気が良くなるかもしれない」と考えて手当てをしない。それで日本は30年が失われました。中国も同じことを繰り返しています。しかも、日本より傷が深まる可能性が高いと思います。
――なぜ日本よりも傷が深まるのでしょうか?
柯 日本のバブル崩壊は、金融システムに飛び火して大手金融機関の倒産と再編につながりました。私自身が長銀にいたのでよく分かるのですが、本来なら再編を早くやれば良かったところ、当時の橋本龍太郎首相の「金融ビッグバン」(大規模な金融制度改革)の提唱に、金融機関が応じませんでした。日本の大手銀行の経営者は東京大学出身のエリートで、頭は良いけれど行動力、実行力が伴わない。だから時間がかかり、30年も失ってしまいました。
一方、中国でも金融機関に飛び火はしますが、銀行は潰れません。中国の銀行は、ほぼすべて国有だからです。大手国有銀行は習近平政権が必ず守ります。ただ、地方には何百何千もの中小の金融機関があり、これらも潰すと大変なので、M&Aさせて存続させる。とにかく金融機関は潰さない、というのが中国の基本です。一時的にはパニックになっても、「危機」までは至りづらい。
ですが、中国の場合はストーリーはここで終わりません。次に飛び火するのが、地方政府です。省政府ではなく、各々の市政府、深圳市や広州市、上海市、天津市、武漢市などの市政府です。
※後編は「なぜ中国経済は失速したのか? 不動産バブルの病巣と“本当の黒幕”」と題し、柯隆氏インタビューの続きを配信します。
>>後編(6月9日21時公開予定)に続く
本記事は2026年6月8日時点で知りうる情報を元に作成しております。本記事、本記事に登場する情報元を利用してのいかなる損害等について出版社、取材・制作協力者は一切の責任を負いません。投資は自己責任において行ってください。








